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「ほんと?桜田くん、ウチに着物あるの?もしかして桜田くんの家、呉服屋さん?」
食い気味で矢継ぎ早に質問を投げかけてくる國枝に圧倒される。学校行事は全て欠席していた優作が吉岡以外の奴と関わることなんてなかったから、優作の内情に興味が湧くのは人間の自然な心理なのだろう。だとしても、人に内情を訊かれるのは得意ではない。
「國枝、食い気味になりすぎ、優がちょっと引いているから」
「桜田くんって不思議な事多いから気になっちゃって……ごめんね」
終始苦笑いで誤魔化すことしかできず、返答に困っていると、それを察した吉岡が彼女に注意したことであっさり身を引いてくれたことにホッとした。
優作に頭を下げて謝った國枝は、気を取り直して「じゃあ、よろしくね」と一言言い残すと最終準備の作業へと戻っていった。
國枝が去った後、隣の吉岡と目が合う。ニタニタと笑顔で嬉しそうな吉岡。自分がここまで学校行事に積極的になることなんてなかっただけに、気恥ずかしさを感じてすぐに視線を逸らした。
「優、ありがとう。楓さんに御礼言わなきゃね」
「別にあいつのことだから、この時間は暇だろ。それにまだ着物持っているか分かんねえし」
「それでも、優が来てくれるだけでも嬉しいのに、自分から手伝うなんてレア過ぎて、俺一生分の運使った気分」
吉岡が優作の右手を包むように握手をしてきて、不覚にも胸が波打つ。こんなに称賛を受けるとは思っていなかったが、吉岡が喜んでいる姿を見るのは嬉しい。彼の温もりに喜ぶようにして優作の顔や身体が熱くなる。
「それはいいすぎだろ」
浮かれたように喜々とする吉岡を見て心底引き受けて良かったと思えた。これで吉岡も自分の本気を見直してくれたらどんなにいいことだろう……。
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