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吉岡にメッセージを送ったが返信どころか既読が付かなかった。もしかしたら、ステージの手伝いに行ってしまったかもしれないけど、一刻も早くこの姿を見て感想を貰いたくて彼を探す。 念のため教室に戻って吉岡の姿を探してみたが、彼の姿はなく、直ぐに違う場所を探しに行こうと踵を返したところで、教室で談笑していた女子達に捕まり、プチ撮影会が始まってしまった。 文化祭開始の十時までまだ時間はある。適当に女子達をあしらい、教室を出て突き当りの角を曲がったところにある、非常階段へ避難しようとしたところで、非常階段の扉の前で人の話し声が聞こえてきた。 咄嗟に壁面に隠れて顔を覗かせると、そこには吉岡と水澤が向かい合わせに立っていた。 この文化祭が終われば水澤の代理担任の期間が終わり、学校を去ることになっている。今更、吉岡に何の用なのだろうか。 もしかして、彼が撮影したあの時の動画を消させようと脅してきているのではないだろうか。  だとしたら今度は自分が助けに行かなければならない。 『君って優作のことが好きな割には鈍感だよね。僕たまたまそこに居合わせて立ち聞きしちゃってさ、優作が君に告白しているところ。好きならなんで優作を躱すような真似をしたのか僕には分からない。それとも敢えて気づかないフリしているのかな?』  二人が取っ組み合いにならないように仲裁に入ろうかと一歩踏み出したところで、水澤が吉岡に向かって問うていることに思わず足を止め、再び身を隠した。 『別に鈍感でもわざとでもないです。優の俺への告白はきっと一時的な気の迷いに決まっています。だから情に流されて相手を選んでほしくない。俺は優が本当に好きな人を見つけられるように傍で見守るって決めたんです。だからこの先も優とは友達以上の関係になることはないです。だからってあんたに渡す気もないですけど』  ――友達以上の関係は築かない……。  ――俺が本気だって分かっても、吉岡の考えは変わらないのだろうか……。 見守るなんて一見嬉しい言葉に思えるけど、優作が欲しい言葉はそうじゃない。 もっと一線を越えた仲になりたいと思うだけに、吉岡の言葉は完全に線引きをされてしまったみたいで、気持ちが萎んでいく。 『それって君のエゴじゃない?優作のことは好きだけど、彼氏になる気はない。だけど僕には渡さないって』 『彼氏になる気も何も優は、俺の事なんか眼中にすらな……』 これ以上、水澤と吉岡の会話は聴くに堪えられなかった。吉岡は完全に優作が好意を寄せているのだと思っていない。 だとすれば、どうしたら吉岡に自分の本当の気持ちに耳を傾けてもらえるだろうか。  彼の喜ぶことをしていれば、おのずと気持ちに気づいてくれるのだろうか……。 それはあと何十日かかる?何年かかる? 待っているだけではこの現状が変わらないことは分かっているけど、優作にはそれを打開する術が思い当たらなかった。

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