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吉岡との文化祭
教室へ戻ると、時刻は十時を回り、放送部のアナウンスと共に文化祭の開催が告げられた。外のグラウンドでは露店の他にも野外ステージが特設されているらしく、陽気な司会者の声が聞こえてくる。
結局、吉岡とは会うことができず、たまたま居合わせてしまった水澤との会話の中での吉岡の意志に凹みがちなりながらも、気持ちを切り替えて喫茶店の準備に取り掛かる。
開始後の校内や教室内の客足は疎らであったが、昼が近づくにつれて徐々に廊下も室内も騒がしくなっていった。気が付けば、あっという間に座席は満員。
一般客の出入りも許可をしているせいか、見慣れない制服もよく見かけるようになった。
祭りというくらいなのだから賑わっているに越したことはないのだろうが、優作にとってはあまり得意ではない慣れない空気。
欠員の穴埋めなのだからウエイターに徹しようとしても、SNSで情報が拡散されているのか、優作が席の横を通る度に足止めを食い、「やっぱり、あの着物男子カッコいいんだけど」なんて騒がれては、次に出てくる言葉は「一緒に写真撮ってくれませんか?」だった。
クラスの連中なら百歩譲って我慢はできたものの、何処の誰かも分からない女と写真を撮るなんて耐えがたい。中には断っているにも関わらず、しつこく連絡先を聞こうとしてくるものもいて、困り果てている所を國枝に助けてもらえたが、優作の精神は昼を迎えた頃には疲弊しきっていた。
そんな午前中を終え、昼のピークが過ぎた頃に漸く客足が落ち着いてくる。國枝が「とりあえず大丈夫そうだから、自由に回ってきていいよ」と声を掛けてくれたことにより、今日一日の優作の役割を終えることが出来た。
あとは、吉岡と文化祭を楽しむだけ……。
水澤との会話を聞いてしまった後とはいえ、優作は吉岡に会いに行きたくてたまらなかった。
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