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飲食できる教室を探しながら吉岡の隣を歩く。文化祭というイベントの雰囲気がそうさせるのか、デートのような気分で優作の気持ちは高ぶっていた。 よくすれ違いざまに見かけるカップルを思い起こしては、当事者同士はこんなにも浮ついた気分でいるものなのだろうかと、小さな幸せに口元が緩みそうになるのを堪える。  吉岡の距離を詰められないもどかしさはあるけど、これはこれでいい……。  しばらく校内を歩いていると、二階の突き当りに飲食専用の多目的室を見つけたので、そこで昼食をとることにした。 長テーブルを二つ向かい合わせに繋げている座席が三台と、二人隣り合わせの席が数台ほどある。   一台の長テーブルは派手めの女子と男子の集団が陣取って賑わっていた。文化祭に飽きた連中が暇を持て余して屯っているのだろう。  露店やステージに一切目もくれずに、トランプゲームをして遊んでいる所が、普段の昼休みと変わらない。 あとはカップルや、友人同士で寛いでいる連中でさほど五月蠅さは気にならなかった。 優作と吉岡は一番窓際にある長テーブルの端の二席に向かい合って座る。 「優、ありがとね。まさか店番やってくれるとは思わなかったから」 「あぁ……。お前が忙しそうだったから」  座席に着くなり、ビニールからプラスチック容器を取り出しながら改めて御礼を言われ、優作は照れ隠しで顔を俯けて返事をする。 自分も袋から容器を取り出すと、輪ゴムを外して割り箸を割いて焼きそばを口にした。特別美味しい訳では無いが、吉岡と食べる飯は幸福感も上乗せされて倍の美味しさを感じる。 「そういえば、楓さんに会えなかったなー。着付けに来てたんでしょ?」 「うん、でもすぐに帰った」  厳密には帰らせたんだけど……。 その後の動向は知らないが、楓は文化祭を見て回るようなタイプじゃないし、今日の夜だって店を開けるはずだ。それよりも自宅に帰って昼寝の続きをしているに違いなかった。 「そっかー、残念だったなー」 「お前が着付けのときくれば会えたよ……」  むしろ一番に吉岡に見せたかった。だから、居て欲しかったのが本心だったけど……。 ふと、数時間前に『優とは友達以上の関係になることはないです』と水澤に話していた吉岡を思い出しては心寂しくなった。

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