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20-7
「流石に優の着替え中は覗けないよ」
吉岡が眉を八の字に曲げて笑う。
着替えを覗くのを躊躇うってことは、意識しているからって捉えていいんだよな?心の中で問うたところで返事など返ってくるはずもない。
「別にお前になら覗かれてもいいし……。つか、一番にこの姿見せたかったんだけど」
優作なりの精一杯でそう呟く。もう一押しできれば吉岡だって自分の気持ちに気づいてくれるかもしれない。羞恥心を押し殺してまで吐いた言葉に、期待しながらも頬杖をついてそっぽを向く。
すると、向かいの座席から噎せたような咳が聞こえてきて目線を戻すと、吉岡が胸を叩いてせき込んでは慌てた様子でお茶を流し込んでいた。
「ごめん……」
もしかしたら脈があったかもなんて期待を膨らませていたが、『そんなこと言うな』とか『それは千晃君としては嬉しい』だとか冗談で返されるわけでもなく、意気消沈する。
その後の言葉を待ってみても、吉岡の気に触れてしまったのか、気まずい空気が流れてしまったまま、それ以降、返答どころか目線を合わせてくれない。
こんなに近くにいるのに、自分のことを避けるようにたこ焼きを頬張りながらスマホに視線を落としてしまった吉岡を見て、微かな不安を過らせていた。
考えれば考えるほどもしかして吉岡の気持ちは徐々に冷めてきているのでは無いだろうかと負の感情が湧き起こってくる。あの水澤との会話だって、本心からの言葉かもしれない。
折角の吉岡との文化祭が楽しめない。今自分が出来ることはこの吉岡といる空間を楽しいものにすることなのに……。
想い、想われているじゃなくて、吉岡といる時間が大事だからと言い聞かせる。
しかし、ただ謝られただけではどう返すことも出来ずに優作もそれ以上会話を続けることが出来なかった。
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