舞台袖の下手から壇上へ上がると、より一層に盛り上がりが増す。自他ともに認める容姿の良さの影響か、主に女子からの黄色い声が多い。 一方で男子からは「こんなの上手くいくに決まってんだろ」と野次が飛んできた。 壇上の真ん中で、右が赤で左が青のジャケットを着た司会者に挟まれる。 「これまた着物のイケメンくん。年次とお名前は？」 　青い方にマイクを向けられて『三年Ａ組　桜田優作』と淡々と答える。 「着物は出店の衣装ですかね？」 「ああ」 　司会者泣かせの返答をしていることに自覚はあるが、司会者との雑談なんてどうでもよかった。今の優作には吉岡のことしか見えていない。 両サイドでは、沈黙という魔の空気に慌てた様子で青い方が「女子のみなさーん。３年Ａ組に行けばこのイケメン君がいますよー！」と必死に頼んでもいないのに宣伝を始める。 　すると、赤い方が「あーこんなイケメンに俺も告白されたい」なんて猫撫で声で喋っては青い方に「お前は論外だわ」と突っ込まれ、ひと笑いをとっていた。 「では、桜田さんは誰に想いを伝えますか？」 　ひと笑いによって取り戻した客席の空気に気を取り直して、再び司会者にマイクを向けられた優作は、客席を見渡すと、後方に佇んでいる吉岡の姿を見つける。 誰を指名するかなんて決まっている……。 「同じクラスの吉岡千晃」 「吉岡さん？は此処にいるのかな？吉岡さん上がって来てくださーい」 もう後には引けない。誤魔化しだって利かない。吉岡の名前を口にした直後に、優作は大きく深呼吸をする。　　 自分が告白をすると宣言して、吉岡はどう受け止めているだろうか。 期待と不安で吉岡のことを目で追うことができず、その時がくるまでじっと客席とステージの間の一点だけを見つめていた。 暫くして、下手側から吉岡が上がってくる気配がすると、同時に会場全体がどよめきだす。 「ちあき」と言うのだから司会者も観客も異性だと思ったのだろう。壇上に上がってきたのが、茶髪の制服を着たごく一般の男子高校生なんて、驚くのも無理ない。 「おっと……。これは、まさかの男！これはもしかして、流行りのボーイズラブでしょうか⁉」 　司会者も驚いていたのか、少しの沈黙の後、本来の職務を思い出したように動揺を隠せていない声音で青い方が話す。それに同調するように赤い方も「今日ならいいでしょう、禁断の愛」とフォローを入れていた。 　正直ただ好きな奴が同性なだけで何が禁断の愛だと詰りたくなったが、目的はそうじゃない。 中には明らかに引いている声だとか、見世物のように騒いでいる奴らが目立つ。先ほどの動物園のような騒がしさはいずこと言ったほど、客席の反応の変化が目まぐるしく変わっていた。きっと客席の中に、優作の噂を知っている奴もいるのだろう。 承知の上で名乗り出たとはいえ、外野が邪魔くさく感じた。 「では、桜田くん今此処で愛の告白をお願いしまーす」 　司会者二人は舞台袖へ捌けていくと、優作は渡されたマイクを持ち、ステージ中央で吉岡と向かい合う。見慣れた顔に見つめられているだけなのに、マイクを持つ手が震えた。