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今自分を捉えている吉岡は何を考えているのだろう。
この状況をどう感じているのだろう。
唇が渇き、自分の本気を伝える緊張で押しつぶされそうになる。
「あ、あのさ……。俺、吉岡のこと……。本気で好きだから、お前と友達じゃなくて、その……。こ、恋人として付き合いたいって思ってる」
言葉をひとつひとつ絞り出しながらも、今自分のできる精一杯の想いを声にした。
告げた途端に汗が吹き出しそうなほど体温が上昇していく。
今までこんなに緊張感を持って相手と向き合うことなんかなかった。どうせ駄目だと端から諦めて、通じ合いたいなんて心から思うことなんてなかったからだ。
吉岡だから、伝わってほしい。吉岡と一緒にこの先もずっといたいと思えたから……。
優作は両拳に力を込めて握る。
返事を聞くのが怖くて、目を伏せたくなるのを我慢した。また冗談だって思われたくないから、じっと彼の目を見て返事を待つ。
「いいよ。俺も優のこと好きだから。付き合おっか?」
吉岡は深く俯き、スッと顔を上げると僅かな違和感を残して目を細めて笑った。
「えっ?」
あっさりと返事をされて拍子抜けする。気持ちを受け入れてくれたことに変わりないのに、何処か腑に落ちないのは、てっきり吉岡は重く受け止めて返事をしてくれると思っていたからだ。
言葉に魂が込められておらず、言葉だけ羅列されているようなそんな感覚を覚える。表面上では大成功の筈なのに、心の底から喜べない。
そんな置いてきぼりの気持ちを抱えた優作を余所に、会場が湧き上がる。すると、煽るようなノリで客席からキスコールが始まり、戸惑った。
こんな所でキスなんかしたらそれでこそ、吉岡に軽くみられてしまう……。
司会者に助けを求めようとアイコンタクトを送ってみるが、助けるどころか、一緒になってコールをしていた。
――やはり公の場で告白なんて無謀だっただろうか。
望んだ展開とは違う方向へ向いていることに狼狽えていると、吉岡が一歩前に出て自分に近づいてくる。
こんな状況になって吉岡は怒っているに違いない。
大きく振りかざされた右手の気配を感じて、優作は殴られる覚悟で首を竦めた。
しかし、打撃どころか温かい吉岡の手が頭に触れ、額に柔らかい何かが触れては離れていった。直後に優しく微笑んでくる。
どうやら自分は吉岡にキスをされたらしく、客席から黄色い歓声があがる。秒刻みで起きた出来事に情報の処理が追いつかない。
司会者に「ありがとうございました」と降壇を促され、気づけば吉岡の背中を追って歩いていた。
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