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すっかり外も日が暮れて、誰もいない暗い家庭科室で着物から制服に着替える。 優作は、ズボンだけ履き替え、上裸のまま水道水で顔を洗っていた。顔を洗ったことで、だんだんと冷静に物事を考えられるようになる。 吉岡にどうやっても伝わらないのなら、諦めてしまった方が楽だ。吉岡だって友達以上のものを望まないのなら、優作だってその距離を保っていればいい。 もし次に彼が話し掛けてきて、いつも通りの態度だったら自分はそれを受け入れる。 もう本気で彼に想いを告げようなんて思ったりしない。 これは今まで自分を蔑ろにしてきた罰なんだと受け入れよう……。   生徒の声で騒がしくなる廊下。後夜祭で浮かれているのだろう。開いた窓の外から、男女の騒いでいる声が聞こえてきた。  優作はタオルで顔を拭き、ワイシャツを羽織るとベストを被って家庭科室を出た。 後夜祭に出るつもりはない。本当は、國枝や女子から後夜祭の話を聞いたときは吉岡と出たいと思っていたけどそれは叶いそうになかった。きっと吉岡は飯田と辻本と一緒なのだろう。考えれば考えるほど、虚しくなり、気が落ちていくばかりだった。  教室へと戻り、鞄を取りに行こうと消灯された真っ暗な廊下を重たい足取りで歩く。  自教室前方の扉を開けて、月明かりに照らされた薄暗い教室の中で、最後尾の自席に人影を見つけてビクリと体が震えた。    自分の席に誰かがいるのは間違いなく、優作は扉の横にあったスイッチをつけると、薄暗かった教室が明るくなる。  人影の正体が明かされると、心臓が止まりそうな程、吃驚した。 「吉岡……」 「優、おつかれ」  てっきり飯田達と共に後夜祭に出ているものだと、今日はもう吉岡と話すのは無理だと諦めていた。  そんな彼が優作の席に座り、右手を挙げて話し掛けてきている。優作は吉岡にゆっくりと近づき、彼の座る場所からひと席前の通路で足を止めた。 「吉岡……。もう後夜祭に行ったのかと思ってた」 腕を組んで優作だけを見据えている吉岡に、いつものおどけた様子はない。どちらかと言えば怒りの方が強い気がする。 「本当はもう優とは話さない気でいた。だけど、逃げたままじゃいけないと思って」  吉岡の容赦のない言葉に胸が痛む。あのステージ上の告白から吉岡を捕まえられなかったのは、彼が意図して避けるための行動だったのかと思うと寂しくなった。 「単刀直入に聞くけど、昼のあれはなに?」 「あれは……」  回りくどい言い方はせずに直球で昼の出来事について問われる。  何と言われたら、あれは優作の本心。  だけど、正直に伝えたところで吉岡には信じてもらえないかもしれない怖さがあった。どうすれば、どう伝えれば吉岡に信じてもらえるのかと考えているうちに言葉が詰まっていく。 「また優の冗談?俺、言ったよね?あんな場で告白されたら断れないって。じゃあ、告白するって何?優には公の場で恥かかせたくなかったから、ああするしかなかった。俺の気持ち知っていて弄んでる?」  そんな優作の言葉を待たずに、矢継ぎ早に問うてくる吉岡の声には怒気が込められていた。 やはりあの時感じた吉岡の不自然な行動は感情が込められたものではなかった。誰かに見られる中で振られる辛さを吉岡は知っている。だからこそ、優作の為に気を遣って告白を受け入れ、コールが鳴りやまない状況をおさめる為にキスしたまでだった。

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