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「んっ……んっ……」 静かな教室に響くリップ音と優しくも激しく触れ合っている唇の感触に高揚して、声が漏れ出してしまう。 「優……好き」 「……んっ、俺もっ」 こんなに好きな人と気持ちを重ねてするキスの気持ちよさを感じる日がくるとは思わなかった。吉岡に触れられるたびに、好きが溢れてきてもっと欲しくなる。 このままもっと触れて欲しい……。 そう願ったところで、唇がゆっくり離れていった。 「よしおかぁ……」  唇の名残から、強請るように彼の名前を呼ぶと、当の本人は膝を立てるのを止め、かかとに腰を落とすと耳朶を真っ赤にさせながら俯いた。 「優、その顔反則。これ以上すると歯止め利かなくなるんだけど」 「吉岡が好きなのは本当だし……。お前が欲しいのも本当だから……」  吉岡は悶えた様子で自身の頭を両手で掻きまわすと、ボサボサの頭で優作を抱き竦めてきた。 吉岡の体温は心地が良くて、心臓の鼓動の速さが伝わってくる。ずっとこうされたかったから幸福感で胸がいっぱいになった。 「前みたいにどうせ駄目な覚悟でいたけど、優が嬉しそうに応えてくるから調子に乗っちゃったじゃん」 「もっと調子乗れよ。お前にならもっと触られたいから……」 吉岡はそっと肩を掴みながら、体を離してくると、顔を赤くしてじっと見つめてくる。 「あーもう。優の男殺し。後夜祭でる?」 「お前がでるなら……」 「じゃあ、行こうか」 「えっ……。続きは……」  優作が問うのも虚しく、吉岡は深く息を吐き、その場から立ち上がると、そそくさと自席まで戻り、右肩には自分の鞄、左手には優作の机に掛かっていた鞄を手に取っていた。  ――完全にこれはお預けコース……。  先程の余韻が抜けないまま、途方に暮れているうちに早々とその場を退散しようとする吉岡の姿を目にして、優作も慌てて立ち上がっては追いかける。 なんだか不完全燃焼のまま、吉岡の左手の鞄を受け取ると、吉岡の後についていった。 その先なんて期待をしてしまった自分が恥ずかしくなる。 「優。続きはまた今度ね。まだ優のこと完全に信用しきった訳じゃないし。俺、今までの分、目移りさせないように、もっと俺のこと大好きにさせたいから」 教室から出る手前で吉岡が振り返ってくると、ニヤリと笑みを浮かべてきた。もうとっくに、俺の心は吉岡のものだと言いたくなったが、このもどかしさも悪くない。  吉岡へのドキドキが収まらないまま、教室を後にした。

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