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十 口封じは 2
「ん、んぅ! う!」
「静かにしろよ。隣に聞こえるだろ」
腰を掴まれ、身体を捩って逃げようとするが、鮎川の力の方が強いらしい。鮎川は岩崎のズボンを掴むと、下着ごとずるりと剥がしてしまう。足は拘束されているので、膝のあたりで引っ掛かったままの服に、余計に身動きが出来なくなった。
(ちょっ、なに、してっ……!)
下半身を剥き出しにされ、さすがに羞恥心がこみ上げる。先ほど撫でられ指摘された通り、岩崎の性器は僅かに勃起していた。状況に余計に興奮するのを、冷静になれと念じるようにして落ち着かせようとする。
「あんまり暴れると、怪我するよ」
耳元に囁かれ、ぞくんと皮膚が震える。冷たさの中に、いつもの鮎川の穏やかな雰囲気を感じて、岩崎は視線を鮎川に向けた。鮎川は、陰鬱な雰囲気など感じさせない様子だった。岩崎の知る、あの頃の――走り屋のトップだった頃の、憧れの人に見えた。
(――鮎川、なんだよな……)
昔のことに触れられたくないらしい。鮎川がそうだというのは態度で解ったものの、まだ実感としてははっきりしていない。岩崎の中であの頃の記憶は、美しく箱の中に閉じ込められている。
岩崎は一方的に憧れを抱いていたが、親しかったわけではない。岩崎は中学生で、鮎川はずっと年上だった。相手にされていなかったと思うし、きっと鮎川は岩崎の存在など覚えていない。付きまとっていた記憶はあるが、それだけだ。鮎川にしてみれば、些細なことだろう。
感傷に浸っていた岩崎は、突然、濡れた感触を尻に感じて、驚いて目を見開いた。ぬるりとした粘液が双丘を滑って割れ目の方へと落ちていく。
「この部屋、道具だけはあるから」
「―――」
鮎川が何をするつもりなのか理解し、驚いて首を振る。
「ん、む!」
顔を振ったおかげでバイブが口からごとりと抜け落ちる。唾液がだらりと落ちるのも構わず、顔を上げ鮎川を睨む。
「おいっ、あんた――」
「勝手に」
鮎川の指が、岩崎の口に押し込まれる。
「喋るなよ」
「んぐっ!」
ぐっと口に指を挿入され、反射的に仰け反る。舌を掴まれ、指で咥内を蹂躙される。
「んぁ、んっ……!」
口の中を掻きまわされ、ゾクゾクと快感が駆け抜けた。
(なん、これ……っ……)
感じたことのないような快楽に、脳が痺れた。口に性感帯があるなど、意識したことがなかった。キスをするときも、女に積極的に咥内を弄られたことはない。
「ぅ、あっ……ん」
漏れる声が、自分のものでないような甘さを帯びる。触ってもいないのに、性器が反応する。
ずるり、口から指が引き抜かれた。
「んぁっ、ん」
唾液と共に、息がこぼれた。
鮎川が別のベルトを手にする。
「大人しくしてろよ」
「――待っ……」
ベルトを噛まされ、そのまま耳の後ろで固定される。半開きになった唇から、唾液があふれ出した。
「んぐっ、んぅ」
「まあ、せっかくだし、コレ使ってやろうか」
そう言って、先ほど落とした、唾液にまみれたバイブを手に取る。
「――」
何をされるのか、解っているのに。
何故なのか、心臓がゾクリと震え出した。
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