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十二 口封じは 4

「――っ」  数分か、数秒か。意識を飛ばしていたことに気が付いた岩崎は、ハッとして身体を起こした。やけに怠い身体と、尻の妙な違和感。ギシギシと身体は痛み、顎のあたりもやけに疲れている。 (夢――なわけ、ねえわな)  岩崎の姿は半裸のままで、脱がされた服が床に落ちたままだった。ただ、ローションと精液で汚れていたのは拭き取られているようだった。 (鮎川は……)  部屋に、鮎川は居なかった。どこかへ出てしまったのか、一人取り残されたようだ。今のうちに部屋を逃げ出すことはいくらでも出来たが、指一本動かすのも億劫で、そのままソファに倒れ込む。下半身は冷えたが、パンツを穿くのも面倒臭い。 「……」  散々、道具で虐められた。鮎川にとって、触れて欲しくない話題だったから、自分を遠ざけるためにわざと酷いことをしたんだと思う。では、自分を抱いたのは何故だったのだろうか。  唇に触れてみる。鮎川の欲望にまみれたキスは、乱暴で酷く甘美な味がした。  鮎川があんなキスをするなんて、寮の誰も想像が出来ないだろう。あんな風に激しく抱くのを、岩崎だけが知っている。自分だけが知っているという、密かな優越感。あの男を、あの男の正体を、自分だけが知っている。 (……俺、嫌じゃ、ねえんだ)  鮎川に抱かれたのが、嫌じゃない。それどころか、あの頃、鮎川に憧れていた女や岩崎のような男たちよりも、自分の方が上だと思ってしまう。少なくとも、あの瞬間、鮎川は岩崎に欲望を抱き、岩崎を欲したのだ。  ごろんと横になって余韻に浸っていると、不意にドアの方で鍵を開ける音が聞こえた。ドアが開き、鮎川が帰ってくる。 「はあ……」  吐息を吐き出し、鮎川が部屋に入ってくる。髪が濡れていた。シャワーを浴びに行っていたのだろう。 「あ」  鮎川が岩崎に気づき、気まずそうな顔をする。まだ居たのかと言わんばかりの顔に、岩崎はのそりと上半身を起こす。鮎川の視線が一瞬、まだ服を着ていない下半身に向いたが、フッと逸らされてしまった。 「鮎川」 「……さっきは、やり過ぎた」  岩崎に感情をぶつけてすっきりしたのか、鮎川がそう言う。すぐ傍に腰かけ、鮎川の指先が岩崎のピンク色の髪に触れた。 「――俺も、いきなり……」 「うん」  岩崎はこつんと、鮎川の肩に額を預けた。鮎川は何も言わず、無言で床に落ちた岩崎の服を拾う。  憧れの人が目の前にいると知って、いきなり距離を詰め過ぎたと、自覚する。鮎川にとっては触れて欲しくない話題で、今もきっとそれを口にすることはないだろう。  額を擦りつけ、体重を預ける。石鹸の匂いがした。 「……そのうち、教えろよ」 「――まだ、懲りてねえのかよ」  ジロリと、怜悧な瞳が岩崎を睨む。心臓がずくずくと疼く感覚に、岩崎は無意識に唇を緩める。 「ブジー嫌がってたろ。突っ込んでやろうか」 「っ! ヤダって!」  パッと鮎川から離れ、ソファの端に逃げる岩崎の足首を、鮎川が掴む。ぐいと足を開かれ、アナルに長い指が這う。入り口を擦るように撫でられ、ビクビクと身体を震わせた。 「っ、ちょっ……」 「ブジーは嫌なのに、バイブは良いのかよ?」 「ばっ」  つぷ、と指がアナルに入り込む。さんざん掻きまわされたせいで、抵抗など一切なくするりと飲み込んでいく穴に、長い指が出入りした。 「あっ、あ……」  ビクッ、ビクッっと、身体が揺れる。もう身体は拘束されていないのに、抵抗できない。無意識に鮎川にしがみ付く。 「さっきのスクリューのヤツ、挿入れてやろうか」 「っ、も、ヤダって……! イくの、つらっ」 「その割に、すごい吸い付いて、僕の指食われそうだけど」 「あっ、あ、……鮎、川っ……!」 「……お前、良い顔するよな……。こっちが、ヤバくなる」  鮎川の喉が動いた。キスをされるかもしれないと思ったが、鮎川はしてこなかった。その代わりに指を引き抜き、突き放すようにして服を岩崎の胸に押し付ける。 「さっさと、着ろよ」 「っ、ん」  視線を逸らしてしまった鮎川に、岩崎は火照った身体をごまかす様に、服を着るしかなかった。

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