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十八話 お願い

 怖くないのか、と問われれば、勿論怖い。岩崎は生来、そういう性癖ではないし、男性器に何かを挿入するなんて、想像するだけで身がすくむ。  では、何故こんなことをしているかと言えば、相手が鮎川だからに決まっている。  鮎川なら良いや。  それだけの、シンプルな理由で、岩崎は鮎川に無防備な姿を晒している。 「っ、ん……」  岩崎は下半身だけ脱いだ形で、ソファーにもたれ掛かる。不安が混じるせいでクッションをぎゅっと抱きしめ、目の前で前屈みになって自身を弄くる鮎川の頭を見下ろした。  ドクドクと、心臓が鳴る。興奮と恐怖に、精神が磨耗する。鮎川は無言で、ローションを使って岩崎の性器を愛撫する。くちゅくちゅと濡れた音が室内に響いた。 「は、っ……あ、んっ……」  鮎川に触られていると思うと、妙に興奮した。鮎川の前髪から覗く怜悧な瞳をじっと見つめる。鮎川の骨っぽい手が、性器に絡みつく。ぐちぐちと上下に動かされ、扱かれる。  目線は合わない。鮎川は存外、真剣な表情で、岩崎の性器を見ている。 (なんか、見られてんの……)  ぞく、背筋が震える。視線に、愛撫されているようだ。  くち、と音を立て、粘液と先走りの精液が混ざる。鮎川は先端を執拗に愛撫した。それから、やがて銀色に光る金属の棒を取り出す。  ビクッと、無意識に身体が震えるのに、鮎川がクッと小さく笑った。岩崎の知る、『総長』だったころの笑い方だ。 「怖いのか? さっきまでの威勢はどうした」 「っ……、うるせえな……」 「こんな小せえ穴、入ンのかな」  棒の先で、穴をツンツンとつつかれ、ビクビクッと腰が引ける。 「あっ!」 「動くなよ。危ねえ」  鮎川が性器を握る。もう片方の手でブジーをそっと先端に近づけた。それを見て、思わずぎゅっと目を閉じる。 「力、抜け。あと、見てろよ」 「っ、怖い、だろ」 「見てねえ方が怖いだろ?」  ホラ。と言うように、鮎川が先端にブジーを突き刺した。 「あ」  小さな穴を、ブジーが押し広げる。ローションと精液の滑りを借りて、つぷぷ、と肉に埋まっていく。 「あ、あ――っ」  ぞくぞくっ。背筋が震える。  恐怖心すら快感になって、脳内麻薬が分泌される。ハァハァと息を吐き出す。興奮して、岩崎は鮎川を濡れた瞳で見つめた。 「全部、入った……」 「ハァ、ハァっ……!」 「ちゃんと、見えんの?」  鮎川の問いに、コクコクと頷く。 「ナカ、弄られんの、気持ちいいの?」 「わ、かん、ね……っ」  気持ち良いかどうかなんて、解らない。ただ、異常な興奮が、岩崎を襲う。  ブジーの突き刺さった性器は、もう触れてもいないのに、腹につくほど勃起している。ドクドクと、心臓が早鐘を打つ。 「あ、鮎川……っ」  怖くて、興奮して、鮎川の袖にすがり付く。鮎川は熱っぽい顔で岩崎の唇に指を這わせる。 「お前の顔、良いな……」 「あ、ん……なに、が」 「すげー、そそる」  そう言って、鮎川が岩崎の唇を塞いだ。舌をちゅくちゅくと吸われ、舌先で咥内を擽られる。上口蓋を舐められ、唇を噛まれた。 「ん、ぅん……」  鼻から抜ける声が、女のようだと岩崎は思った。鮎川に、メスにされている。  角度を変えて唇を吸われ、唾液が溢れる。深く食われるようなキスをされたかと思えば、啄むように舌先で弄ばれた。 「は、んむ……鮎……っ」  キスを交わしながら、鮎川の手が太股を撫でた。淫靡な動きをしながら、手がするりと脚の間に伸びる。  指先が穴に触れる感触に、岩崎はビクッとして唇を離した。 「あっ」 「こっちも、弄って欲しいだろ?」 「っ、まっ……、チンコ、挿入ってんのにっ……」  まだブジーが挿入されたままだと、岩崎が訴える。鮎川は宥めるように眉間にキスをした。 「だから、こっちも挿入れてやんないと、可哀想だろ。脚、開けよ」 「っ……」  命令口調で囁かれ、岩崎はおずおずと脚を開いた。鮎川の声は抗いがたく、支配されていることが、心地良い。  左右に脚を大きく開いた岩崎に、鮎川は「良い子だ」とでもいうように、額にキスをする。 「っ、……鮎……川」  鮎川が壁際に積まれた一角から、バイブを手に戻ってくる。ピンク色のコブがいくつもついたバイブだった。 「やっぱ男子寮だから、アナルものが多いのかね」 「……だとしたら、悪趣味だ」  鮎川の部屋にアダルトグッズを置いていく連中は、実際に鮎川が使用するとは思っていないだろう。そう考えると、チョイスが酷いと思う。鮎川はバイブにコンドームを被せて、岩崎のアナルに押し当てた。細くなっている先端が、肉に埋まっていく。 「う――、ん……っ」  ぴく、と膝が揺れる。無意識に閉じようとする足を、鮎川の手が押さえつける。 「腰上げて。見えるように」 「っ……」  言われるままに、僅かに腰を上げる。鮎川は素早く岩崎の背にクッションを入れ、尻を高く上げさせた。 「あ、んま、見んな……」 「お前は見ろよ。挿入ってんの、見える?」 「……見えな、い」  本当は見えていたが、否定した。つぷん、つぷんと、バイブが中に入っていく。シリコンでできたバイブは程よく柔らかく、すんなりと中へと飲み込まれていく。 「見えないの? すげー、エロいのに。写真撮って送ってやろうか?」 「っ、い、良いっ……」 「まあ、誤爆怖いしな……」  言いながら、鮎川はバイブのスイッチを入れた。ぶるぶると内部で震えるバイブが、振動したままぐちゅぐちゅと抜き差しされる。コブの部分がヒダに引っ掛かり、中をゴリゴリと擦り上げた。 「あっ、あ! あ、あっ……!!」  激しい快感に、ゾクゾクと背筋が粟立つ。ブジーで塞がれている先端部分から、精液がにじみ出た。 「お前のここ、旨そうに咥えるじゃん……」 「んぁ、んっ……、あっ! は、んっ……」 「……声、抑えて……。出来ないなら、また塞ぐけど」 「――っ、ん!」  反射的に、唇を噛む。口枷は苦しいから嫌だった。 「っ! ぅ、んっ!」  じゅぽじゅぽと腸壁を擦られ、ビクビクと膝を震わせる。びくん! 大きく背中をしならせて、ひときわ大きい快感が突き抜ける。 「あ――、あ……ん……」  くったりと腕をソファに投げ出した岩崎に、鮎川は無言でバイブを引き抜いた。ひくひくと、アナルが淫らに蠢く。その様子に、鮎川はごくりと喉を鳴らし、自身のスラックスのファスナーをおろした。鮎川の性器はパンパンに勃起しており、先端が先走りの白濁に濡れている。 「……ぁ……」  岩崎は惚けた表情で息を切らせながら、挿入しようと膝に手を掛けた鮎川を蹴った。 「おい」  拒絶され、鮎川がムッとする。 「誰、が、挿入れて良いって、言ったよ……」  ハァ、息を切らしながら言う岩崎に、鮎川がぐっと息を詰まらせた。 「……ダメなのかよ」  鮎川は不満そうだった。急なお預けに、ムッと顔を顰める。鮎川の性器を見れば、限界なのが解る。今すぐ突っ込んで、突き上げたい衝動を押さえ、岩崎を見る。 「ヤりてえなら、お願い、聞いてよ」  急な取引に、鮎川は眉を寄せた。 「何だよ。言っておくが、僕は何も喋らない――」 「無視、しないで」 「あ?」 「無視、すんな……。居ないもの扱い、しないで」 「そんなの……」  してないだろ。という言葉は、紡がなかった。岩崎の真面目な顔に、鮎川は無言で頷く。 「無視なんかしない……」 「あとコレ抜いて」  岩崎がブジーを指さす。 「……」  仕方がないという顔で、鮎川は岩崎の性器に突き刺さったままだったブジーを引き抜いた。尿道を塞いでいた金属の棒が取り除かれ、中から精液がどろりとあふれ出す。 「あ――っ、ん……!」  ビクビクと身体を震わせる岩崎に、鮎川はハァと息を吐くと、ぐいと太腿を掴んだ。 「あ」 「もう、無理」  そう言って、肉棒の先端をアナルに押し付ける。 「鮎……っ」  叫びは、唇に塞がれた。

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