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十九 背徳感

 ずぷん、と奥まで貫かれ、岩崎は声にならない悲鳴を上げた。唇を塞がれ、深いところまで貫かれ、頭が真っ白になる。先ほどイったばかりのせいか、身体は敏感になっていた。一突きされるたびに、快感が全身を駆け巡る。 (や、ば……っ、気持ち、い……っ)  ずぷずぷと、内部を擦られる感覚が、バイブに与えられるものよりずっと気持ちがいい。鮎川の動きは激しく、時にしつこく、岩崎の良いところばかりを責め立てる。 「んぅ、んっ……、く、はっ……。んぁ」  息継ぎのために唇が離れ、もう一度塞がれる。咥内を舌で蹂躙されながら、岩崎は何度も貫かれた。恋人みたいなセックスに、心臓がドキドキと脈打つ。  汗に、髪が張り付く。ギシギシと揺れるソファの音と、つながった個所から漏れる濡れた音。衣服が擦れる音と、息遣い。他には何もない、何も邪魔するもののない空間で、互いの熱を貪るだけの行為は、ひたすらに背徳的だった。 (さっちゃんもマーコも、ゆっちも……)  鮎川と関係のあった女たちは、岩崎を弟のように可愛がってくれた。彼女たちはみんな鮎川を好きだったが、彼の女になった女性はいなかった。岩崎は、鮎川が気が乗れば誰とでも寝るのを知っている。そして、その相手を忘れてしまう。  鮎川にとっては、殆どの存在が「その他大勢」だ。自分もその中に入っていて、忘れ去られている。 「あ、んぅ……」  ぷは、と息を漏らして、唇が離れる。鮎川と、目が合った。 「岩崎……っ」  小さく、名前を呼ばれる。その声に、胸がギュッと締め付けられる。  少なくとも、自分は、かつての女たちとは違う。「今」鮎川と一緒に居られることの意味を思う。そう思いながら、鮎川の背中に腕を回した。  ◆   ◆   ◆ 「う……?」  暑い。そう思って目を覚ました岩崎は、目の前に鮎川の顔があって驚いて顔を仰け反らした。いつの間にか抱き枕のように抱えられ、鮎川の腕の中で眠っていたらしい。鮎川も静かに寝息を立てている。 (うわ)  びっくりした。呟きを呑み込み、ドキドキする心臓を押さえる。鮎川はまだ眠りから覚めていないようで、怜悧な瞳は閉じたままだった。  あの後、結局、岩崎は鮎川に何度も抱かれた。後ろから獣のように犯され、床の上でもした。最後の方はあまり記憶にない。何度も貫かれ、何度もキスをした。 「……」  鮎川の寝顔を見ながら、優越感に浸る。鮎川の彼女になりたかった女たちは、朝まで一緒に過ごしたことはない。「俺の方が凄いんだ」という子供じみた感情が、憧れからなのか、他の理由からなのか、解らない。中学生のころ、岩崎は鮎川の隣に並びたかった。背中を追いかけて走りたかった。こんな風に、触れたいと思ったことは――多分、ない。それなのに、今はこの男の腕の中に居るのが、心地いい。 (このまま、朝まで……)  起きたら、追い出されそうだと思う。鮎川は優しいが、優しくない。気まぐれに触れて、気まぐれに突き放す。かつての自分が、そうだったように。 「鮎川……」  ポツリ呟き、鮎川の胸に顔を埋める。無視しないで欲しい。居ないように、扱わないで欲しい。――見捨てないで欲しい。  一度は、拾ったのだから。

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