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二十 翌朝

「起きろ」  の一言とともにベッドから落とされ、岩崎は背中を摩りながら起き上がった。 「痛って……、おい、もう少しマシな起こし方ねえのかよ……!」 「シャワー浴びたいんだから」 「ああ……」  それもそうかと、岩崎も納得して脱ぎ散らかした服を拾い集める。昨夜はそのまま寝てしまったので、体中なんだかべたべたする。鮎川がシャツを羽織るのを見て、岩崎はビクッと身体を揺らした。 「――」  鮎川の肩や胸に、赤い痕が残っていた。無意識に、岩崎が付けたものらしい。噛んだ痕や、キスマークが鎖骨付近にべったりとくっついている。鮎川は気づいていないのか、眠そうな顔のままボタンを閉めた。 (……後で怒られるやつ)  シャツのボタンを全て閉めると、かろうじて見えないようだ。ホッとして、カットソーを羽織る。 「岩崎、お前部屋どこ?」 「あ? 403だけど」 「4階か。面倒だな」 「じゃあ服貸してよ」 「やだよ」  鮎川はそう言いながらシーツを剥がして洗濯かごに放り投げた。 「帰ったら洗わないと」 「俺やっておこうか?」 「……良い」 「何でだよ」 「頼んだら、今日も来るだろ」 「そりゃ、そうだ」  何が悪いんだと、唇を曲げる。どのみち、岩崎は鮎川の部屋に来るつもりだった。 「あ、俺の部屋でも良いけど? 遊びに来る?」 「何で僕がお前の部屋に行くんだよ」 「なんとなく」  なんとなくそう言ってみたが、意味はない。誘ったところで、岩崎の部屋は何もない。岩崎にとっても、鮎川の部屋の方が居心地が良いのだ。誘う理由はあまりなかった。 (まあ、良いんだけどさ……)  鮎川の態度は、少し素っ気ない。つれないもんだと、ため息を吐きながらベルトを締める。  ふと、背中に気配を感じ、ドキリとした。 「岩崎」 「っ」  急に耳元に囁かれ、ドキリとして肩を揺らす。 「な、なんだよ?」 「お前、僕のこと他の人に喋るなよ」 「――しゃ、べったら?」 「お仕置き」 「……っ。でも俺、もう、ブジーも怖くねーけど……」  ゾクリ、背筋が粟立つ。 「あんなの、一番細いヤツだろ」 「……」 「アレよりぶっとくて、イボが付いたやつが――」 「わあああっ! 解った! 解ったから! 誰だよそんなもん置いていった奴!」  想像して泣きそうになった岩崎に、鮎川は心底楽しそうに笑っていた。

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