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二十一 シャワー室にて
シャワー室は他に利用者は居ないようだった。早朝にランニングする者や、朝風呂の習慣があるものも居たはずだが、たまたま空いていたらしい。
待たずに入れるとあって、早速服を脱いでシャワー室の扉を開く岩崎に続いて、何故か鮎川も入ってきた。
「は? 空いてるだろ――」
どうした? と首をかしげる岩崎を押し込み、鮎川はシャワー室の扉を閉めた。そのまま、シャワーの蛇口を捻って、お湯を出す。
「まあ、考えなしにローションとか入れちゃったし」
「え?」
ぐい、と後ろを向かされる。鮎川はシャワーを手に取ると、お湯を岩崎の尻に向けて当ててきた。
「っ……!」
「最後の方、ゴムも着けてなかったし」
「あっ」
指が入ってくる感触に、岩崎の身体がビクッと震える。中を掻き出すように動く指に、ぞくぞくと背筋が震えた。
「んっ、ぅ……あ、馬鹿っ……」
「色っぽい声、出すなよ。綺麗にしてんだから」
「だっ……、あ、あっ……!」
トロリと、粘液が抜け出る感触に、ぞわぞわと皮膚が粟立つ。気持ち良いような、悪いような、なんとも言えない感触がした。
太股を粘液が汚すのを、鮎川がシャワーで流す。そのままアナルにシャワーを近づけ、中を洗うように指を動かした。
「っ、ん! あ、鮎川……っ、自分で……っ」
「ん? 自分でやるのか?」
はい。そう言って、シャワーヘッドを渡される。指がぬるりと抜け出ていった。
「……」
シャワーヘッドを手にしたまま、岩崎は一瞬、固まった。目の前には、何故かまだ鮎川がいる。
「っ、まだ、居るのかよ?」
「? 当たり前だろ。僕だって洗ってない。早くしろよ」
「――っ」
(出ていく、選択肢なしか……)
かといって、「出ていけ」とは言えない。鮎川が離れていってしまうようなことを、自分から言えなかった。
尻に手を伸ばし、窄まりに指を這わせる。シャワーを当てるようにして中を洗おうとするが、奥まで洗える気がしない。その上、
(見てる、し……)
鮎川の視線に、カッと頬が熱くなる。鮎川の視線に熱量なんかないのに、意識してしまって、仕方がない。
「っ……見んな……よ」
吐息を吐き出し、弱々しく言った岩崎に、鮎川がシャワーヘッドを握る手を取った。
「っ」
「やっぱ、洗えないじゃねーか。良いから、後ろ向いて」
「うっ、うん」
「壁に手ついて、尻は上げて。……足も開いて」
「鮎川っ……」
鮎川はそう言いながら、水圧を強くした。水音が大きくなる。
「っ、ん!」
指が、再びぬぷんと挿入される。
(っ、お湯、が……)
中までしっかりと洗われる感触に、岩崎は頭の芯が熱くなって、くらくらした。
◆ ◆ ◆
ボーッとした顔でトレイを持っていると、鮎川がため息とともに岩崎の手から奪い取って、席に着いた。朝食の食堂は混雑している。ちょうど、隣の席が栗原だった。
「おはよう、岩崎。なんか顔赤いな」
栗原はそう言いながら、鮎川にも「おはようございます」と挨拶をする。
「……のぼせた。シャワーで」
「ああ、朝風呂行ってきたんだ」
「朝風呂も気持ち良さそうだよな。眠くならない?」
「眠い」
二人のやり取りを、目の前で聞いていた鮎川が、卵をかき混ぜながら呟く。
「なんだ、友達いたんだ」
「どういう意味だ?」
「友達が居なくて、僕の部屋に来るのかと」
「馬鹿言え。あんたは特別――」
岩崎が言おうとしたのを、鮎川がテーブルの下で足を蹴って止める。
「いっ……!」
脛を思いっきり蹴られ、声にならない悲鳴が漏れる。岩崎はぐっと手を握って、痛みに耐えながら鮎川を見た。
鮎川の唇が「おしおき」と動くのに、ビクッと肩を震わせる。
「……」
「どうした、岩崎」
「……なんでも、ないっ……」
岩崎が呻くのに、鮎川はしれっとしていた。
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