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二十六 ほろ酔い

 首筋に舌を這わせながら、シャツの中に滑り込ませた手で肌を探る。成り行きで岩崎を抱いたことは幾度もあったが、愛撫らしい愛撫はしたことがない。胸の突起を指で摘まむと、岩崎はピクリと震えた。 「んぁ、ん……」  鼻孔から抜ける甘い声を聴きながら、くにくにと乳首を指で弄る。イタズラするように指先で何度も摘まんでやると、岩崎がいやいやと首を振る。 「鮎、川……、それ、ヤ……ん」  嫌だと口にする岩崎の顔は赤く、呼吸も乱れていた。潤んだ瞳に、理性が飛びそうになる。 「……良いから」  岩崎の反応に興奮しながら、鮎川はぐいとシャツをまくり上げた。露になった乳首に噛みつくように吸い付く。ちゅう、と強く吸ってやると、ビクビクと腰を捩じりながら身体が跳ねる。乳輪を舌でなぞり、先端を舌先でつついてやると、面白いほどに反応を見せた。 「あっ、あ……!」  素直な快楽を見せる様子が、面白くないはずがない。打てば響くような感覚は心地よく、より貪欲に求めてみたくなる。いうなれば、もっと虐めてみたくなるし、もっと色々な顔を見たくなる。嗜虐心が刺激され、堪らない気持ちになった。  ごくりと喉を鳴らし、ベルトを外してズボンを引き下ろす。岩崎の下着はだいたい柄物の派手な見た目が多い。この日の下着は黒地に赤とオレンジの模様が入ったパンツだった。 「あ――……」  岩崎が潤んだ瞳で鮎川を見る。赤い頬と高い体温のせいで、酔っているのかもう酔いは覚めているのか、判断が難しかった。ただ、鮎川が何をしているのかは、解っているだろうと思った。  鮎川。小さく、唇が動く。鮎川は無言で、下着を脱がせた。  岩崎は、抵抗しない。 (ローション、なさそう……)  何もない殺風景な部屋に、余計なものなどなさそうだった。自信の指を口に含んで濡らし、後孔に這わせる。抵抗があるかと思ったが、何度も鮎川を咥えたことのあるアナルは、案外あっさりと指を呑み込んだ。 「ん――」  ぬぷ、と指を挿入し、浅いところを何度も抜き差しする。そのうちに穴が柔らかくなり、徐々に受け入れやすくなっていく。岩崎は、ただされるがままに、時折ビクビクと身体を震わせるだけだ。指を増やし、動きを早くしても、荒い呼吸音が聞こえるばかりで、嫌がる様子もない。 (どう、思ってるんだろうな)  酔った姿に煽られて、あっさりと理性を失う鮎川を、岩崎がどういう感情で受け入れているのか、鮎川には知る由もない。もっとも、聞いたところで答えが返ってくるとも思えなかった。  互いに、ただお互いの熱を欲しているように、触れ合い、絡み合い、受け入れ合う。恋人ではなかったが、セフレでもなかった。鮎川にとって岩崎が岩崎でしかないように、岩崎にとっても鮎川は鮎川でしかないだろう。  形容しがたい、歪な関係。 「あ、あ……ん……」  指を三本まで増やしたところで、鮎川はホウと息を吐いて指を引き抜いた。自身のズボンの前を寛げ、勃起した性器を取り出す。  鮎川は小さく「挿入れるぞ」と言って、アナルに先端を押し付けた。ぬ、と肉輪を拡げて、先端が中へと押し込まれる。ローションのぬめりがないせいで、いつもより挿入に時間がかかる。岩崎はぐっと歯を食いしばり、シーツを握りしめた。 「う、んっ……」 「っ……」  互いに呻きながら、ゆっくりと肉を沈めていく。鈴口の太い部分がズルんと入り込むと、あとは一気に奥まで挿入する。 「あ、あ――っ!」  岩崎が喘ぎながら白い喉を仰け反らせる。根元まで押し込んで、鮎川は一度深呼吸した。 「大丈夫か?」 「う……、んぅ……」  ハァハァと息を殺しながら、岩崎が小さく頷く。その様子に鮎川は小刻みに揺らすように小さく身体を揺さぶった。じわじわと刺激を与えられ、もどかしさに岩崎の身体が揺れる。 「あ、あっ……、鮎川っ……、ん」 「ここ、感じるようになってんじゃん」  揶揄するようにつながった部分を擽ってやれば、過剰なほどにビクンと身体を揺らす。甘い声を上げながら、岩崎が潤んだ瞳で見上げた。 「あゆ、もっと……、して……」 「ん?」  何を言いたいのか分かったが、虐めたい欲求が沸き上がり、わざとゆっくりと身体を揺らす。 「それ、じゃ……ヤダ……、もっと、擦って……」 「っ……」  ゆっくり虐めてやろうと思ったが、岩崎のおねだりにあっさり屈する。腰を掴み、一気に性器を引き抜くと、奥まで貫く。ぱちゅんと肉がぶつかり合う音が、部屋に響いた。 「あっ!」 「……お前が、欲しがったんだから、な」  そう言って、ずぷずぷと、腰を打ち付ける。岩崎は甘い声で鳴きながら、腕を伸ばした。 「キス、して……」 「……クソ」  ぞく、皮膚が粟立つ。  いつもいつも振り回されて、気に入らないのに。  何故なのか、こんな時。どうしても、可愛く見えてしまって仕方がなかった。

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