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三十三 待ちぼうけ

 玄関ホールにあるベンチに座って、プリンをもくもくと食べていた岩崎に、栗原が近づいてきた。最近の寮内は暑いせいか、栗原はハーフパンツにランニングという出で立ちだ。一方の岩崎は、鮎川に言われたこともあって、半袖のカットソーである。 「よ、岩崎。門限破ったんだって?」 「栗原。ちょっと間に合わなかった……」  落ち込んだ様子の岩崎に、栗原は隣に腰かける。 「まあまあ、次は気を付ければ良いだろ。それにしても、なんでこんな場所でプリン食ってるんだ?」 「鮎川が帰って来たらすぐに解るから。お前もプリン食う?」 「……鮎川さんが帰ってくるの、三日後とかじゃなかった……? プリン、良いの?」 「おう。冷蔵庫に入ってる」  忠犬ハチ公かな。と栗原は思ったが、口にしなかった。冷蔵庫の方に向かい、プリンが並んだ一角から一つ手にする。 「……鮎川って書いてあるんだけど」 「うん。それ」  勝手に食べて良いものか迷ったが、出張中だし賞味期限が切れてしまうか、と思い、プリンを手に岩崎の隣に戻る。  ペリリと封を開けて、プラスチックのスプーンを突き刺す。黄色いプリンの隙間を割って、カラメルソースが染み込んできた。 「暇ならカードゲームする?」 「あー」 「ラウンジでやれば、玄関見えるじゃん?」 「うん、そうだな」  それも良いか。スプーンを口でぶらぶらさせながら、栗原の提案に頷きかけたところに、ラウンジにやって来た人影をみつけ視線をやった。 「あ」  岩崎が立ち上がって、そちらに向かうのを、栗原も目で追う。脚立を片手に、藤宮がやって来たところだった。 「藤宮先輩」 「あれ、岩崎。どうも」 「先輩もプリン食います? 何してんの?」 「ポスターを貼るんだよ」  どうやら掲示板に、啓蒙ポスターを貼るらしい。 「手伝う」 「ん? そう?」  藤宮からポスターを受け取り、脚立に昇る。藤宮が「右側すこし斜め」と、指示するのに従って、ポスターを鋲で留めた。 「ありがとう」 「他には、何かある?」 「大丈夫」  脚立を藤宮に返却して、岩崎は首を傾げた。 「なあ、腕痛いの?」 「いや」  藤宮は少し困った顔をして、シャツの袖を捲った。左腕の肘から手首にかけて、大きな傷があった。古傷のようだ。 「昔、ケガをしてね。握力が弱いんだ」 「じゃあ、脚立俺が戻すよ。どこに戻す?」 「じゃあ、倉庫に」 (そういや、鮎川がよく手伝ってたっけ)  藤宮の仕事の手伝いは、本来なら副寮長の雛森の仕事だと思うが、大抵は鮎川が手伝っていた。 「ありがとう。助かるよ」 「また何かあったら言って。暇だし」 「そうさせて貰うよ」  クスリと笑って、藤宮はポンポンと岩崎の肩を叩いた。

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