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三十七 シャワーのあとで
「なーなー、服貸してよ」
「やだよ」
自分の部屋に戻るのが億劫で、鮎川に貸してと頼んだが断られてしまった。岩崎は唇を尖らせ「ケチ」と呟く。
「まあ良いや。このままシャワー行っちゃおう」
蒸し暑い寮の廊下でうたた寝したせいか、身体がベタベタしている。鮎川の後に続くように、シャワー室へ向かった。鮎川は大浴場が開いている時間に帰れなかったと、ぶつぶつ文句を言っている。
「鮎川。先、行かないでよ」
「子供か」
先に帰ってしまいそうな鮎川に、そう言ってシャワー室に入る。誰かの置き忘れのシャンプーを勝手に持っていって、頭の上から洗っていった。
「ふぅ」
急いで外に出ると、鮎川はまだシャワー中のようだった。先に帰ってしまうかもと思い、慌てて飛び出したせいだ。
唯一貸してくれたタオルで身体を拭きながら、脱衣場で待つ。しばらくして、ようやく鮎川が出てきた。
「なんだ、早いな」
ポタポタと髪から雫を落としながら、鮎川がやってくる。岩崎は火照った身体を手で仰ぎながら、鮎川を見た。
細身で、骨張った身体。浮き出た鎖骨、腰骨の雫。岩崎はドキリとして、目を逸らしタオルを腰に巻いた。最後に触れたのが、ずっと昔のような気がする。
岩崎は、鮎川に触れられるのが好きだったし、触れるのが好きだった。先ほどのキスの余韻までよみがえって、じんわりと胸に火を点す。
(……ヤバ)
ホゥと息を吐いて、鮎川を再び見ると、あとはTシャツを羽織るばかりだった。鮎川は岩崎の方を見て、眉をひそめる。
「なんだ、お前。着替えないのか?」
「服持ってきてねーし、汗かいた服着たくないし。このまま帰る」
「――」
腰にタオルを巻いた状態でそう言った岩崎に、鮎川は嫌そうに顔をしかめた。
「バカ。ダメだろ」
「みんなやってるって」
「ふざけんな。裸で寮内をうろつくな!」
ぐい、と腕を引かれる。そのまま、鮎川のTシャツを被せられる。
「なんだ、貸してくれんの」
「なんでお前はそうなんだ……」
頭を抱える鮎川に、岩崎は「へへ」と笑った。鮎川は背が高いせいか、大きいサイズを着ているらしく、岩崎が着ても余裕がある。
「なんだこの柄。だっせぇな」
「うるさいよ。どうでも良いだろ」
「いや、節水ってないわ」
Tシャツの前面に、『節水』と書かれている。まったくオシャレじゃない。
「安かったんだよ。ほら、早く行くぞ」
「押すなって」
鮎川に連れられるまま、岩崎はシャワールームを退場した。
◆ ◆ ◆
「ったく……。髪も全然、拭いてないし」
がしがしとタオルで髪を拭かれ、岩崎は「やーめーろー」と抵抗したが、結局はドライヤーまでされてしまった。髪を乾かされながら、うとうとと船をこぐ。鮎川の手が心地よかった。
「髪、痛んでるな」
「良いんだよ。放っておけって」
いい気分だったところにそう言われ、不機嫌を露にする。鮎川は「はいはい」と言いながら、首の後ろにドライヤーを当てた。
「うわ」
「なんだよ」
「ちょっと、ゾワッとした……」
あまり触るなと、腕を押し返す。鮎川は「は」と笑って、意地悪な顔をした。
「なんだ、お前ここ弱かったの?」
「っん、知らねえよ! 触んな!」
イタズラに触れられ、真っ赤に怒鳴る岩崎に、鮎川は腰を引き寄せちゅうっと首筋にキスをした。
「っ、あ」
ゾクゾクと身体を震わせる岩崎に、鮎川は調子にのって首の付け根に舌を這わせる。
「ふぁ、バカっ……。鮎川っ……」
「こんな格好でウロウロして……。誘ってんのか?」
背後から延びた手が、太股を撫でる。そのまま、Tシャツを軽く捲り上げた。
「ばっ、捲るなっ」
「そんで、履いてないし」
鮎川の手が、まだ熱を帯びていない性器を転がすように手のひら乗せる。急に触れられ、岩崎はビクッと身体を揺らした。
「あ、鮎川っ……待っ」
「嫌なの?」
「っ、そう、じゃ……なくて……」
鮎川に、触れられるのは好きだ。居ない間も、寂しくて仕方がなかった。嫌なはずがない。
「あんた、疲れてる……だろ」
「――」
岩崎の言葉に、鮎川は目を瞬かせた。それから、すぐにプッと吹き出す。
「なんだ、そんなことか」
「そんなことじゃ、ねーだろっ……あっ」
先端を擦られ、膝が揺れる。鮎川が出張から帰ったばかりで、疲れていると思うのに、止めるのもまた、難しい。
「案外、可愛いこと言うよな。お前」
「あゆっ……ん」
顎を捕まれ、唇を奪われた。深くなる口づけに、身体の力が抜けていく。
「ん、は……」
ちゅ、音を立てて唇が離れる。身体が火照って、芯のほうが疼いていた。
「……止めておく?」
「……っ、ヤダ……。あんたが……、先に、触ったんだからっ……」
ねだるように、鮎川にしがみつく。鮎川は薄く笑って、岩崎の髪を撫でた。
「……俺が、する」
「ん?」
岩崎はそう言うと、殆ど体当たり状態で、ベッドに鮎川を押し倒した。
「おい?」
「……大丈夫。知ってるだろ、出来るの」
そう言って鮎川のズボンを下着ごと下ろすと、岩崎は鮎川の性器を掴んだ。
「――っ」
「見てて」
鮎川が、息を呑んだのがわかった。
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