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三十九 言っても解らない
ぐったりとベッドに体重を預けた岩崎の横に、鮎川が横になった。
「ふぁあ……射精すると眠いな……」
「シャワー浴びたのにベタベタ……」
「だな」
しばらくくっついたり足を絡めたりしてじゃれ合っていた二人だったが、やがて岩崎は「んー」と伸びをしてのそりと起き上がった。
「どうした?」
「……部屋、戻らないと」
「ん?」
「服ねーし」
「……」
鮎川は真顔になって、それから岩崎の腕をぐいと引っ張り、腕の中に捕らえた。
「おいっ」
「服は貸してやるから、ここで寝ろ」
「……良いの?」
「だってお前、真っ裸で部屋に戻るだろ」
タオルは巻いていくつもりだったが、概ねその通りだし、服を貸してくれると言うのなら問題はない。そのまま鮎川に寄りかかる。
「細けえなー。男子寮だろ」
「ケツに突っ込まれてるくせに危機感がない」
「はあー?」
なんだよ。そう思って鮎川を見る。鮎川は瞳を閉じていた。
「……な、なんだよ……」
問いかけたかったが、鮎川は静かに寝息を立て始めて、それ以上何かを聞くのは無理そうだった。
(何だよ)
むず痒い感情が、胸を擽る。岩崎は布団をひっぱって、潜り込んだ。鮎川にしがみ付くと温かな体温と鼓動に、無性に安心する。
(何だよ……)
瞼が重くなるのに任せて、岩崎は瞳を閉じた。胸を形容しがたい感情が閉めていたが、何故か不快ではなかった。
◆ ◆ ◆
「何か朝から暗くねーか?」
「うるさい黙れ少し放っておいてくれ」
頭痛でもするのか、両手で頭を抱えてソファの上でブツブツ言っている鮎川に、岩崎は肩を竦める。どうやらお経を唱えているようだが、理由は解らない。
「なんかこえーよ。そのブツブツ言うの」
「般若心経だろ。ああ、もう、なんで僕はこうなんだ……」
どんよりとした顔で、鮎川はそれでも着替えを始める。岩崎は勝手に鮎川のクローゼットから服を選んで、一番マシなものに袖を通した。
「怖くねえならキモい」
「ハッキリ言うな」
はぁと深くため息を吐いて、鮎川は岩崎を見た。どこか不安そうな顔に、首をかしげる。
「……お前は、なんか思わないのか」
「なにが」
「――セッ……、してることだ」
「あぁ?」
なんだって? と顔をしかめる岩崎に、鮎川は唇を曲げて顔を赤くした。
(セッ? なんだ、セッって)
「ん? ああ、セックスのこと?」
「朝っぱらから堂々と言うな。まあ……そうだけど」
「なんか問題あんの? 気持ち良かったって言ってたじゃん」
まさか嘘なのか? と、顔をしかめると、鮎川は首を振って否定した。
「そうじゃないけど……お前のそう言うところが――いや、もう良い」
「なんだよ。ハッキリしろよ」
「言っても解らん」
もう一度、深いため息を吐き出して、鮎川は背を向けてしまった。
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