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五十八 変わり始めたもの

「は? なんの騒ぎ?」  いつものように鮎川の部屋の前にやって来て、岩崎は困惑して眉を寄せた。 「ああ、丁度いいところに来た。岩崎も手伝って」 「え、良いけど……」  呼ばれて部屋の中に入ると、あちこちに物が散乱して、散らかり放題だった。部屋の中では見知った顔が、ガラクタを段ボールに詰めている。 「これ棄てちゃって大丈夫?」 「おーい、そっち持って」 「うわ、これいつの?」  棚は動かされ、次々と荷物が運び出されている。その様子に、岩崎は首を捻った。 「引っ越しでもすんの?」 「しないし。ちょっと、大掃除をな」 「はぁ」  部屋の中にうずたかく積まれていたガラクタたちが、徐々に綺麗になっていく。岩崎もよく解らないまま、近くにあった段ボールの中に不用品を詰めていたった。 「なんでまた?」 「……まあ、快適な方が良いだろ」 「ソファも捨てちゃうの?」 「あれはお前、気に入ってるから」  全部捨てられてしまうのかと思ったが、そうではないらしい。居場所は残っているのだと知って少しだけホッとする。 「ん? なんだコレ。キーボードか」 「ピアノ?」 「こんなもんあったのか……。……これは、進にやるか」 「ふーん?」  キーボードをよけ、さらに奥にあるものを取り出す。一体この狭い部屋のどこにこんなにものがあるのかと思うほど、ものが溢れかえっていた。  岩崎は鮎川の肘をつついて、耳元に囁く。 「なあ、アレも捨てんの?」 「アレ?」 「……オモチャだよ」 「ああ――」  鮎川の部屋には、大量のオモチャが存在する。しかも最近は、岩崎にと使ったりしているので、使用済みのものも多かった。今まではただのプラスチックのオモチャという認識でしかなかったが、自分が使ったものを他人に見られるのは恥ずかしかった。 「まあ、捨てるし、もう受け取るつもりはないけど――」 「そうなの?」 「岩崎を虐めるのは、自分で選びたいし」  ささやきに、ビクッと肩を震わせた。「それに、誰かに想像されたら嫌だしね」と笑う鮎川に、顔が熱くなる。 (っ、くそ……。鮎川のヤツ……) 「鮎川せんぱーい、これこっちで良いですか?」 「ああ、大丈夫」  羞恥心を悟られまいと、奥にある箱を引っ張り出し、中身を確認する。用途不明の健康器具やらキャンプ用品を押しのけ、奥にある袋を開いた時だった。中身に、一瞬目を瞬かせた。 「あ」  中にあったのは、真っ赤なヘルメットだった。フルフェイスのバイク用のヘルメットだ。 「ん?」  鮎川が気が付いて、横から手を伸ばす。 「あー、誰かの忘れもんか? こんなもんあったのか」 「……」  なんてことないようにヘルメットを手にする鮎川に、岩崎は思わず目を細めた。ずきんと、胸が痛む。 「これいつのだろう。耐用年数もう過ぎてない……?」 「……傷もねーし、使ってなかったっぽいな」 「日光にもあたってなかったし、綺麗は綺麗だけど」  鮎川はそう言って、棚の端にそれを置く。岩崎はそのヘルメットをしばらく見つめていた。

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