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8 三厨グループ本社
高崎
「やってくれたね」
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社長室
「社長失礼します」
カタカタとパソコンを弄っていると菅原が入ってきた。
「三厨グループから共同開発の申し出がありました」
「あー」
不機嫌そうに答えると
「社長が始めたことに対して部下にってのやめてくださいね、特に近藤聡くんに」
「あーまぁ三厨グループには聡営業で行かせて」
「……おほん、まさか三厨グループに対して枕営業する気ですか?」
「んーいや、内容にもよるんじゃね?」
「内容ですか、詳しい話はまだ上がってませんね、とりあえず営業に連絡しておきます」
営業部
「近藤」
「はい」
「これ、菅原秘書からメール来た、確認しておいて」
「分かりました」
送られてきたのは菅原秘書から、こういう件はだいたい社長がらみなんだけど。と中を確認すると案の定だった。
「これ私が行けばいいでしょうか?」
「まぁご指名だしな、あとβの山口も連れて行け」
「分かりました、山口くんよろしくお願いします」
「はい、よろしく」
「ちっまたΩとβかよ、社長本当にαに頼るの嫌いだよな」
「てか甘やかしすぎ?」
って言われても全然僕なんか行かなくてもいいんだけど……。
社長がらみの案件でしかもΩが行くってなると結果は枕営業だよね。
う……憂鬱だ。
「あ、近藤さんタクシー捕まえました」
「ありがとうございます」
βの山口くんは一つ上の先輩で、よく声をかけてくれるし結構フレンドリー。
「俺緊張します、三厨グループって言ったら近藤グループと商品開発バトってるって聞きましたもん」
「そうなんだ」
「なんの共同開発ですかね」
「うーんなんでしょうか」
三厨……どこか懐かしい名前だ。
でも誰だっけ?
「うわぁ!! うちの会社より遥かにでかいな」
「本当に……びっくり……」
ビルを見上げていると警備員に
「すみません、ここの会社の方ですか?」
「あ、いえ本日打ち合わせにきました近藤グループの近藤と申します、こちらは山口です」
「ああ、社長自らなのですね、連絡は聞いております、こちらのエレベーターよりお上がりください」
「あ、いえ自分はたまたま近藤だけあってただの営業です」
「そうですか、てっきりΩの方が社長なのかと思いました、我々の強い味方です」
よく見ると警備員がΩだった、これもこれで珍しい。
「エレベーターで12階に上がっていただいて受付がおりますのでそちらで応対してもらってください」
「分かりました、ご丁寧にありがとうございます」
ぺこっと挨拶してその場を後にした。
エレベーターに乗り込み山口くんが
「でもたしかにΩで社長は俺も見たことないかも」
「それは僕もだよ、なれたらすごいよね」
「やっぱ社員は全員Ωかβとかかな?」
「うん、じゃないと乗っ取られそうですね」
「うんうん」
と二人で何気なく会話すると直通のエレベーターはあっという間に受け付けまでたどり着いた。
「じゃぁ受付してきます」
「お願いします」
12階から見える景色はとても素敵だった。
「あ、近藤グループの方ですか?」
と1人の男が出てきた。
「はい」
会議室に向かった。
「こちらからの依頼なのにご足労いただきありがとうございます」
「いえ、こちらこそ素敵なオフィスにお招きいただいてありがとうございます」
にこにこと話をしていると
「Ωの方が営業なんて珍しいですね」
この感じ……きっとこの人はαだ。
「よく言われます」
「もしかして」
耳元で
「枕ですか?」
と来たのでぶわっと悪寒を感じた。
でも山口くんが
「いささか失礼じゃないですか?」
「そうですね、私も社長に怒られます、簡単に自己紹介と今回の説明をさせていただきます」
「あの、謝ってくれませんか?」
「なぜ?」
「……いいよ、山口くん僕は馴れてるから」
「馴れてるからってそんな見過ごせない」
きっと山口くんはαの男に睨みをきかせたが
「はぁーβは黙れ」とαの威圧が見えた時
「こーら」
ぽこんと頭を叩かれていた。
「いて、奏 さん登場早すぎませんか?」
「受付の子にΩが来てるって話を聞いたからね、浩 くんはΩのことあまり考えてあげれないと思って早めにきたの」
「ぶーじゃぁ俺仕事に戻りますので」
「はいはい、えっと近藤グループの営業さんの方々にはとんだ、失礼をしてしまいました、申し訳ありません。私は三厨グループ副社長を務めております、三厨奏 と申します」
三厨……奏……どこか懐かしい響き……。
【もし聡がΩだったら俺と結婚するんだよ】……遠い昔の記憶。
あの頃に記憶はもう思い出したくない。
「近藤さん? 挨拶……」
「あ、失礼しました、近藤グループ営業担当をしております、近藤と申します、さきほどは収集をしていただきありがとうございました」
「近藤さんというと会社とのご関係は?」
「たまたまです」
「そうでしたか、そちらの方は?」
「私、同じく営業担当しております、山口と申します、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
名刺を交換した。
どこか懐かしい響きに少し心臓の音がうるさい。
奏……奏。
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