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梅月遊について②

3組の教室に入り、アタシとクソモヒカンは空いてる席に座った。こいつも一緒なのがムカつくけど、成り行き上仕方ない。 「俺、一年のときからアイツと同じクラスなんだけどさー」 伊藤は別にアイツの友達でもないみたいで、簡単にアイツのことを話しだした。その口調は、単に噂話を面白がっている風でもある。 写楽が嫌いそうなクズね、こいつ。まぁ、こういうそこそこのクズが一番情報収集には便利なんだけど。 「俺は梅月を変人とまでは言わねぇよ?優しいしイイ奴だしさ。ただ、少し浮世離れしてんだよな~、話し方とか、考え方とか?今時スマホも持ってねぇんだぜ」 「マジで!?どうやって連絡すんだよ!」 「さぁ。つーか連絡したい奴とかいないんじゃねぇの?まぁスマホを持ってないのは家庭の事情ってやつじゃねぇかな」 「家庭の事情?」 なによ、教育方針とか?高校生は義務教育じゃないけど、自分で携帯代も払ってないような奴らに笑われることじゃないのは確かね、アタシもだけど。 「ここだけの話な。……アイツさー親がいなくて、施設で育ったらしいんだよ」 今のは少しだけインパクトが強かった。アタシもクソモヒカンも、一瞬言葉を失ってしまった。だってそんな奴、周りにはなかなかいないでしょ? 「隣町にあるんだよな、梅月園っていう親がいない子供の面倒見る施設がさ。てか名字までそのものじゃん?アイツって赤ん坊の頃親に捨てられたんだって!なんかドラマみてーだよなァ。あ、別に面白がって聞いたわけじゃねぇよ。ただ、俺もアイツのヘンな言動とかが妙に気になっててさー、家族のこととか聞いたら自分から教えてくれたんだ。ま、それ聞いたらスマホ持ってねぇのもテレビとか興味ねぇのも納得って感じ。でも、さすがに男にペット志願するような変態とは思わなかったけどな!」 「おいお前、それ以上言わない方がいいぞ」 「え?」 クソモヒカンが、楽しそうに話してた伊藤をいきなり椅子ごと蹴り飛ばした。キャーッ!!と、教室に残っていた女子が悲鳴を上げた。 アタシも巻き添えを食らわないように、立ちあがって奴らから離れた。 クソモヒカンは、何が起こったのかあまり理解してない顔で床に転がっている伊藤に近づくと、グイッと襟元を掴みそのまま上半身を持ち上げた。……キレてるわね。 「オレもいきなり現れた新参者のアイツが気にくわねぇよ。けど、写楽さんは何でかアイツをすげー大事にしてるみたいだった」 そう、アタシはそれが気に食わないのよね。一体アイツの何が写楽をそうさせるのか……。 「だから写楽さんの大事にしてるモンを貶されっと、写楽さんが貶されたも同然な気分なんだよなァ……」 「ひいッ、ご、ごめんなさい!!」 「アイツを気に食わねぇことと、写楽さんが大事にしてっことは別だから。俺は、写楽さんがあの遊って奴を大事にするつもりなら、俺もそうする。だから次に遊を笑ったら、お前を殺してやるから」 更に上に持ち上げられて、伊藤は首が締まってるみたい。クソモヒカンでもやっぱり男は男ね。 「う、ッ、しない、しないから!苦しっ」 「他の連中にも伝えとけ。今後梅月遊をイジメたり笑ったり影でこそこそ言ったりしたら、4組の犬神写楽の舎弟が殺しにくるってよ」 「わ、わかったッ!」 あーあ、涙と鼻水垂れ流しちゃって汚ない奴……アタシはクソモヒカンほど熱くはなれないけど、写楽の大事なモノをバカにされるのは確かに気分はよくないわね。アイツのことを認めたわけじゃないけど……。 「おい、そこのクソ女!」 「はぁ?」 こいつ、アタシにまで何か言う気?生意気すぎでしょ、クソモヒカンのくせに! 「お前も一緒だよ。いくらアイツが気に入らないからって、勝手に会いに来て罵るとかこいつとやってることは一緒なんだよ!写楽さんにチクられたくなかったら二度と勝手な真似すんじゃねーぞ!!」 「アンタごときがチクったからってアタシが写楽に嫌われるわけないでしょ!」 「本気でそう思ってんのかよ?」 「……!」 マジでムカつく!どいつもこいつもなんなのよ!! 結局今日分かったのは、梅月遊が養護施設育ちでちょっと変わった奴なんだってことだけ。でもそんな情報じゃ、写楽がなんでアイツを気に入ったのかさっぱりわかんない。 逆に、なんでアイツが写楽にペット志願したのかも……そりゃあ写楽は男が惚れるくらいカッコイイけどね。 「……あ」 もしかして……そうよ、それしかないじゃない!どうしてすぐに気付かなかったのかしら……。 アタシはその理由に思い立った時、やっぱり野蛮な男じゃなくてよかった、と思った。だってクソモヒカンだったら絶対思いつかないもの。梅月遊が写楽に近づいた、本当の理由ってやつにね! これは、早急に写楽に教えなくちゃ!!

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