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遊の思案

*** まだ少し、身体が熱い。 先程の自分の恥態を思い出すと、顔から火が出そう……それ以上に、写楽のことを思い出すだけで身体が震える。 さっき僕は、写楽の手の中で…… 『いいぜ、イケよ』 思い出すだけで心臓がキュン、として全身に鳥肌が立った。 ああ、熱いのか寒いのかどっちなんだろう僕は!駄目だ駄目だ、授業に集中しなきゃ!今は化学の実験中なのに! 抱きしめられたときにほんのりと馨ったタバコの匂いを思い出して、胸の中を擽られるような感覚に震えた。 「な、なぁ梅月……」 「え、なに?」 「おまえ、一限目のとき犬神写楽に付いてったじゃん、その、仲良くなったんだなー」 「仲良いっていうか……」 出席番号順で並ぶから、必然的に移動教室でも同じグループの伊藤くんは、今朝から少し僕に対して違和感がある。僕のことをウメボシって呼ばなくなったし、なんかすごく、警戒されてるような、脅えられてるような……。 それは伊藤くんだけじゃなくて、他のクラスメイトもだ。何でだろう?写楽と一緒にいるからって、僕が急に強くなったりとかすることはないのにね。 「あのモヒカンのヤツとも仲良いのか?」 「え?話したことないけど」 「そ、そーなんだ!あはは……なんでもねぇ」 「?」 モヒカンの人って、昨日四組にいた写楽の友達だよね。俺もペットにしてくれって言ってた……でも写楽はペットは僕だけだって言ってくれたから、なんだか嬉しかったな。 そう、僕はただのペットなのに、あんな……恋人にするみたいなキスをしてもらってもいいのかな?幸せすぎて死にそうだった。 ああでも、調子に乗ったらいけない。写楽は僕を軽蔑しただろう。 きっと、男相手なら誰にでもそういうことをする奴だって思われてしまったんだ。 『いいかい?遊ちゃん。他の家でもね、おとうさんはみんな自分の子供にはすることなんだ。何もおかしいことはないんだよ。頭をナデナデするのと同じことだからね……』 「ちょっとウメボシ、ボーッとしてないでよ、実験中なんだから!」 同じグループの浅野さんに怒られた。今僕、何を思い出してた? 「おい、ウメボシ呼びはよせって!」 「は?何よ。なんで?」 「だからぁ……あ、わ、悪いな梅月!」 「いや、別に?僕こそ実験中にぼーっとしててごめんなさい」 「謝るなって、な!さっさと実験やろうぜ」 僕のことを怒った浅野さんを、伊藤くんが咎めた。自分だって昨日まではウメボシって呼んでことあるごとに僕に絡んできてたのに、本当に今日の伊藤君はヘンだ。 普段変人って言われてる僕に言われるなんて、相当ヘンだよ? まあ、それだけ写楽の影響力が大きいってことかな。本当に、彼のペットになれたなんて今でも夢みたいだ。あまつさえ、今朝は彼とあんなことやこんなことを……。 『……遊……』 あ――っっ! 耳元で囁かれた熱い声とか、抱きしめられた感覚が、まだ身体に残ってるよ! 「う……梅月?顔赤いけど、お前熱でもあるんじゃないのか?さっきからやけにぼーっとしてるし」 「あぁ!ご、ごめんなさいっ、実験実験」 こんなんじゃ授業に集中なんてできるわけない、あきらめよう。今更クラスメイトにどう思われてるかなんて、それこそどうでもいい。 僕は、化学の実験を放棄した。

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