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遊と舎弟と弁当と①

* 結局俺は、授業中だった自分のクラスへ堂々と一人で戻った。国語担当の若くて地味な女教師は、途中から入ってきた俺に何か言いたそうな顔をしたが特に何も咎められることもなく、俺は席に着いた。 俺が帰ってきてから25分後に、4限目は終了した。これから昼休みなわけだが、俺はどんな顔をして遊に会えばいいんだろう。   「写楽さーん!今日は一緒に昼飯食べましょう!遊ちゃんも一緒でいいっすから!ね!」 「……」 クソモヒカンをじろっと睨んだ。非常に不本意だが、たとえクソモヒカンでも第三者がいる、というのはなかなかいいかもしれない。ぞろぞろと舎弟の奴らが集まってきたから、第四者も第五者もいるけど。 偶然といえば偶然だけど、遊の過去というか素状も知ってしまったし、別に施設育ちだからと言ってどうこう言うつもりはないけどな、驚きはしたけど。 でもなんで俺は、さっきあんなにショックだったんだろう……。 ショックっていうか、イライラした……のか?でも別に遊にイライラしてたわけじゃない、その矛先は確実にリナだ。  自分から俺の知らない遊の情報を聞きたがったくせに、他人の口からそういう大事なことを聞かされたのがなんか面白くないという、理不尽だけどそんな気分だった。 「あ、あの……犬神くんはいますか……?」 遊が4組に来た。居ますか、ってそりゃ居るだろ、俺のクラスなんだから。でも、隣のクラスに来るだけでビビってる遊はやっぱり可愛い。 「遊!ここ、来いよ」 普通の奴が見れば、派手で悪そうな奴らの中心でだらっと座っている俺はさぞかし恐いだろう。けど遊は、そんな俺の姿を見つけると周りの奴らなんて目にも入りません、みたいな態度 で俺の方へと小走りで寄ってきた。 尻尾が激しく揺れているように見えるのは、きっと俺の幻覚だろう。 「写楽、約束通りお弁当作ってきたよ」 俺のところに着くなり、遊はずいっと大きな紙袋を差し出してきた。もう泣きそうな顔はしてなくて、俺は安心した。 頬を林檎みたいに赤くして、遊はなんとなく上機嫌だ。これって俺に会えたせいか?と自惚れてみるが、これが自惚れじゃないのは分かっている。 「おう、サンキュ」 「えへへ。足りるといいんだけど」 そう言った遊は、周りを気にしだした 「……あの、今日は皆さんと一緒なの?」 「なんだよ、俺らと一緒だとイヤなのかよ?」 ハゲが少し苛ついた口調で遊に言った。 「おい、昨日写楽さんが言ったこと忘れたのかてめぇ」 「あ。そうだった!すんません!」 俺に蹴られる前に、クソモヒカンがハゲの頭を激しく叩いた。ホントにコイツの忠誠心はすげえな、アホだけどそこだけは褒めてやるか。 「い、いいえ!イヤとかじゃなくって、全員分のお弁当とか作ってきてないから!その、ごめんなさい。分かってたらもっとたくさん作ってきたんだけど」 「どんだけでかい弁当作る気だよ。こいつらのことは気にすんな、つーかさすがに家の人に怪しまれるだろ」 「え?……ああ、うん。そうだね」 遊は気付いただろうか、俺が「母親」と言わずに「家の人」と言ったことに。別に気付いても気付かなくてもどっちでもいいけど。 遊はいそいそと紙袋の中から大きなお弁当箱を出した。舎弟連中が見守る中、ぱかっと蓋をあけると、そこにはまるで小学校の運動会の時のような色とりどりのおかずとおにぎりが詰まっていた。 「うわ、何これすっげぇうまそう!!」 「え、これ遊ちゃんの手作り!?マジですげー!!」 感嘆の声を漏らす舎弟連中。どうだすげえだろう、どう見ても母親の手作りにしか見えないクオリティ。さすがだな、遊。何故か俺が誇らしげな気持ちになった。

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