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遊と舎弟と弁当と②
その様子を見て、遊はうふふと嬉しそうに笑った。
「ちょっとお総菜も入ってるんだけどね。それにしても、写楽もだけど、4組の人たちって優しいね。お弁当一つでこんなに褒めてくれるなんて」
「あ?3組の連中だって見たらすげーって言うだろ」
あーでもこいつ今まで一人飯だったんだっけ。一人で食ってる奴の弁当の内容とかに、さすがに突っ込む奴はいねぇのかな……と思ったら。
「3組じゃ、僕の手作りだって言ったら普通に気持ち悪がられたよ?男子にも、女子にも」
「はぁ?なんだそれ、言った奴マジでぶっ殺す!女子もってそれ、完全な嫉妬じゃねぇか」
自分の女子力がねぇのを棚に上げて遊を貶めるとかクズすぎんだろ!
「いいよ別に、女子に気持ち悪がられるのなんて慣れてるし。それに写楽に褒めてもらえたからそれだけでなんか、誰に悪口言われてもどうでもいいっていうか。……あ!でも皆さんに褒められたのもとっても嬉しいです、ありがとうございます。ちょっとずつで申し訳ないけど、よかったら食べてください」
俺の過激な発言を、のほほんと受け流す遊。そんな顔でそんなことを言われたら、さすがの俺も握りしめた拳を緩めざるを得ない。つーか……
「あげねぇよ、俺は結構大食いなんだからな、遊が食べれねぇ分は全部俺が食うし。勝手にこいつらにやろうとすんな」
「へっ?ご、ごめんなさい!」
「別に謝らなくてもいいけど」
「そう?」
なんか俺、すっげぇかっこ悪くねぇか?
「写楽さんでもこんな風に焦ることあるんっスね!」
「俺ら別におかず取らねーっすから、安心してください」
「じゃあ代表して俺だけ頂きますね!唐揚げもらいーっと」
俺の弁当に手を出したクソモヒカンには、それ相応の制裁を食らわした。なんだか大所帯なランチタイムになったが、遊はけっこう馴染んでるようで良かった。
「モヒカン君が宮田くんで、ボーズ君が金田くんで、金髪くんが斎藤くん、ピアス君が野村くん……うーん、次までに覚えてなかったらごめんなさい!僕、あんまり頭はいいほうじゃないから。えーとじゃあもっかい初めから……」
遊は指を使って必死に舎弟の名前を覚えようとしている。イイ奴か。……イイ奴だったな。
「遊、名前なんて適当でいいんだよ。クソモヒカン、ハゲ、キンパ、ピアスで十分」
「なんで俺だけクソが付くんですかぁ!?」
「トクベツサービスだよ、分かれよ」
「さっ、サービスだったんですね!?ありがとうございます写楽さん!!」
喜んでるクソモヒカンはほっといて 、遊を見ると不意に目が合った。瞬間的に、遊の顔がぽぽぽぽ、と赤くなる。あまりの分かりやすさに、慣れた俺もつい苦笑してしまった。
「……おまえ、いちいち赤くなりすぎ」
遊の赤くなった頬を軽くつまんだ。ホントに男かよ、と思うくらいにきめ細かい肌だ。指に吸いついてくるような感触が心地いい。
「あ、あの」
「ん?」
ほんとに可愛いんだけど、こいつ。俺の言葉に翻弄されて、赤くなったり蒼くなったり、ずっと見てても飽きない気がする。
「みんなに、見られてるんだけど……」
ばっと手を放して舎弟の方を向いたら、全員不自然なほどに後ろを向いていた。しかも頭だけ。おい、こら。
「み、見てません!俺らは何も見てませんよ、写楽さん!!」
「そうっすよ!遊ちゃん相手にデレッデレな笑顔全開の写楽さんなんて見てません!!」
「あっ、俺らは見てませんから続きをどうぞ!!」
こいつら……続きをどうぞって何だよ。ここは教室なんだよ!
「………!!」
「おい遊、なんでそこで赤くなる」
余計な誤解を招くだろ!誤解も何もないんだけど……いや、やっぱり誤解だろ。まぁいいか、どうせ見られてねぇんなら有効活用してやる。
「おい、お前ら絶対こっち見るんじゃねぇぞ」
一応、釘を刺しておく。遊は赤い顔のまま、キョトンとして俺の言葉に首をかしげた。
「……?」
こいつ、時々あざとい仕草するよな。わざとじゃないってんだから本当に恐ろしい。嫉妬する女子の気持ちがほんの少しだけ分かるような……分からないような。
俺は遊の両肩をぐっと掴むと、一瞬だけ自分の方に引き寄せて、額にキスをした。
「!?」
本当は抱きしめてディープなやつをかましてやりたかったけど、一応教室だから自重した。ちなみに一般生徒は誰もこっちを見てはいない、派手で目つきの悪いアホが四人、全力で周りを睨んでいるからな。
「しゃ、写楽……」
「……ん?」
今度は、遊の方から俺の胸に抱きついてきた。
「!?」
焦る俺を上目遣いで見つめながら、顔を赤くしたままで遊は言った。
「ペットがご主人様に甘えただけだよ」
な……なんだと……!?
「でも、やっぱりちょっと恥ずかしいね」
そう言って、遊はスッと俺から離れた。
「……………」
最初は俺がキスして遊を翻弄したはずなのに、いつの間にか俺の方が遊に翻弄されている……本当に、こいつって、
「あ……あのー写楽さん、もうそっち向いてもいいですか?」
うるせぇなクソモヒカン。
「ダメだ。つーか一生こっち見んな」
「そんなあぁ!!」
俺はもう一度遊を自分の方に引き寄せると、そのりんごみたいな頬に噛みつくようなキスをした。
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