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バイト先にて

*** 昼休みに写楽と、写楽の舎弟のみんなと一緒にご飯を食べた。にぎやかでとっても楽しかった。高校に入ってから今まで、あんなに楽しかったお昼休みは初めてかもしれない。  今日はバイトなので、僕は学校が終わったらまっすぐにバイト先のスーパーへと向かった。 「お疲れ様です」 「おー遊くんお帰り、今日も頑張って働いてね」 「ハイ」 男子ロッカー室で休憩中だったバイトリーダーの高木さんに挨拶をして、制服を脱ぎ、従業員服へ着替える。食品を扱う仕事だから、本格的な恰好をするのは調理室に入る前だけど。 「……あれ?遊くん、なんか今日元気なくない?」 「え、そうですか?」 高木さんに後ろから声をかけられた。高木さんは30代半ばくらいで、独身だと聞いている。 「うん。最近やけにニコニコしてるからとうとう彼女でもできたのかと思ったけど……さてはケンカしたな?」 「彼女って、そんなのいませんよ」 まずいなぁ、子供たちにもなんか嬉しそうって言われたし、そんなに顔に出るのかな僕。 「じゃあ何かあったの?悩み事ならなんでも聞くよ?」 「いや、別に何も悩んで無いですけど」 悩みがない、というのはまあまあ嘘だ。悩みというほどではないけど、今日は朝から色んなことがありすぎて頭がパンクしそうになっているだけ。 特に今朝の屋上でのことは、何度思い出しても頭がぼーっとしてしまう。昼休みに、自分が普通に(?)写楽に接することができたのが不思議なくらいだ。 僕と写楽は多分、一線を越えてしまった。身体を交えたわけじゃないけど、確実に友達のラインは超えてしまった。 でも、僕たちは友達じゃないし、そう思ったら越える線も何もないんだけど……勿論、恋人でもない。 なのにお互いにお互いの性器を慰め合って、キスをして、抱き合った。彼は僕をペットだというし、僕も自分を彼のペットだと認めている。でもペットと主人って普通あんなことするのかな?よくわかんないや……。 それと、 『お前さ、男相手にああいうことすんの、初めてじゃねぇだろ』 どうして僕は、彼のあの言葉にこんなに傷ついたんだろう。傷付く理由なんて、これっぽっちもないのにね? 僕はロッカーを閉じて、さっきから僕の背中をジッと見ている高木さんに声をかけた。 「……あの、友達でも恋人でもないのに、キスしたりセックスしたりする関係を、世間一般的にはなんて言うんですか?」 別に訊かなくてもいいことなんだけど、せっかく心配してくれてるみたいなので(不躾な視線は不快だけど)訊いてみた。 「え!?今遊くんの口からセックスって単語が出た!?」 「はい、出ました……ケド」 「ちょっ、清純そうな顔して何サラッと言ってんの!?」 何でそんなに慌ててるんだろう、高木さん。僕がセックスって単語を知ってるだけでそんなに面白いのかな? 「あの、高木さん」 「ちょっとまって興奮してるから!」 「はぁ」 とっくに午後の休憩時間は終わっているから、高木さんはただのサボりだ。でも、それを下っ端の僕が指摘したら逆切れされるので、僕は余計なことは言わない。 頼まれたことも絶対に断らないから、少し彼の便利屋みたいにされてるのが嫌だけど、下っ端だからしょうがない。けど、たまに脚や腰を撫でてくるのは止めて欲しいと思う。 「ふぅ……落ち着いた。えっと、それは俗に言うセフレだね」 「せふれ?」 「セックスフレンドだよ。恋人以外の、セックスしかしない友達っていうかー」 「ええと、友達でもないんですけど」 この人、僕の話聞いてた?

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