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梅月先生

* 「ちょっとぉー!!何患者さんのベッドで寝てるんですかぁー!?」 ……………ん? いきなり降ってきた大声に目を開けると、白衣を着たオネーサン……もとい看護師が俺に対して怒鳴っていた。あれ?俺、いつの間にか本気で寝ちまったのか。壁時計を見たら、今は7時だった。 「もう!寝たいなら簡易ベッド貸すって言ったでしょう!?」 「あー……スンマセン」 目を擦りながらむくっと起き上がる。隣で寝ている遊はまだ起きない。 「ていうか君、家に帰らなくて本当に大丈夫だったの?昨日はこっちも忙しかったからつい信じちゃったけど……」 「ちゃんと連絡したから大丈夫ッス」 連絡をしたことはしたけど、きっとしなくても誰も俺の心配なんてしてないだろう。朝まで遊んで帰らないことなんて、しょっちゅうだし。 「梅月くんの保護者の方が見えたから、君はもう帰っていいわよ。学校があるでしょ?」 「あー……」  看護師の後ろには、心配そうな顔をしたおばさんが立っていた。この人が遊の保護者か……昨日の夜、電話で少しだけ話したことを思い出した。 「ごめんなさい、えっと……犬神くんだったかしら。夜に子供たちを置いて施設を出るわけにはいかなくて……ずっと遊に付いていてくれてありがとう」  おばさんは俺に申し訳なさげに頭を下げて、そう言った。 「いや、別にいいです、暇なんで」 俺、コイツの飼い主だし。……なんて、保護者に言うわけねぇけど。  俺がベッドから降りると、おばさんは遊に駆け寄った。 「遊!」 軽く揺すられて、遊は目を覚ました。 「あれ……?梅月先生おはようございます」 「おはようございますじゃないわよもう!心配かけて!」 「え……?あ、ああっ!」 「ケンカなんて慣れないことするから!まったくもう!」 遊は一方的に殴られてただけなんだけど、説明するのが面倒だからそういうことにしておいた。警察沙汰とかマジで面倒臭ぇし……報復はしたから、まぁいいだろうと思って。 「あ……写楽」 遊は、反対側に立っている俺の存在にもようやく気がついたようだ。寝る前に俺に抱きついたことも含めて全て思い出したらしく、いつものように顔を真っ赤に染めた。 「ああもう、起きなくていいから!傷は痛むの?」 「す、少しだけです」 「検査では特に異常は見られなかったので、今日退院されても大丈夫ですよ。帰る前にガーゼを換えますね、今日はお風呂はシャワーなど簡単にして、念のため学校はお休みして……」 看護師が色々説明を始めたので、部外者の俺はもういいかなと思って黙って去ろうとした。 「写楽待って!」 そしたら、ベッドの中から伸びてきたか細い腕にシャツの裾を掴まれた。 「ああ、犬神くんまだ帰らないで?学校はまだ間に合うわよね。私からもちゃんとお礼が言いたいから……」 遊の保護者……梅月先生にも引き留められた俺は、シャツの裾を握っていた遊の手をそっと外すと、ぎゅっと握った。不安そうな顔をしていたからだ。 「まだ、居っから」 「……うん、ありがとう」 あからさまにホッとした顔をしたので、俺は遊の手を離した。看護師と梅月先生はそんな俺と遊のやりとりを不思議そうな顔で眺めていたが、何かを察したようだ。 「じゃあ、詳しくは後でナースステーションで説明しますね。朝食は食べれそう?梅月くん」 「はい」 「じゃあ用意してきますね~」 看護師は出て行き、病室は俺と遊と梅月先生の三人になった。 「えっと犬神くん、ちょっとお話してもいいかしら?」 「ハイ?」 「遊、ちょっと一人にするわよ。朝食食べててね」 「……ハーイ」 何故か俺は梅月先生に病室から連れ出されて、ナースステーションの近くのロビーに連れてこられた。

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