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家に呼ぶ理由

放課後、遊を3組まで迎えに行き、一緒に病院に行った。 舎弟どもが付いてきたそうだったが、「ぜってー来るな」と睨みをきかせた。どうせ遊が俺の家に来るのに便乗したかっただけだろう。  俺は今まで知り合いを家に呼んだことがない。舎弟は勿論、女も。なのに何故遊を呼ぶのかというと、あることを決めたからだ。 遊は今、外来で傷の処置を受けている。俺は玄関前ロビーのソファーベンチに座って処置が終わるのを待っていた。 多分入院中の病衣を来たじいさんやばあさんが、俺と同じように座って中央にあるテレビをぼけっと見ていた。なんか、毎日すげー暇そうだな……。 「写楽、お待たせ!」 そう言って処置室から戻ってきた遊の頭は、随分すっきりしていた 「包帯、取れたんだな」 「うん、もう傷乾いてたみたいだから。なんかすっきりしたぁ。すごく暑かったし、なんか頭に包帯ってすごく怪我人みたいで」 「すごく怪我人だったろうが」 「そうなんだけどねー」 遊が自然に俺の隣に座ってきたので、俺は傷に触れないようにくしゃくしゃっと頭を撫でた。遊は「わっ」と小さい声をあげて驚いたけど、その後は嬉しそうな顔をして俺にされるがままになっていた。会計に呼ばれるまで、俺たちは二人とも黙って座っていた。 * ここから俺の家までは、電車に乗って二つ目の駅……というか、俺は徒歩通学だから、また学校の近くへ戻る感じだ。 この病院は遊のバイトしていたスーパーの近くだから、つまり梅月園も近所にある。明日も学校なのに引っ張り回して悪いな、と少し思った。 「晩飯は出すから、園に電話しとけよ」 「えっ、そんな悪いよ!」 「そんなん、いつも昼にタダ飯食ってる俺の方が悪いじゃねぇか。遠慮すんなよ」 「で、でも」 遊は自分が勝手にやってることだからとでも言いたげだが、そういうわけにはいかない。 「食べれない物とかあったら先に教えろよ」 「たぶんない、です」 「分かった」 俺はシズネに電話して、晩飯は二人分作るように伝えた。そのあと遊にもスマホを貸して、梅月園に連絡させた。 「あの」 「何だよ」 「なんで、僕を家に呼んでくれるの?」 俺は遊をちらりと見た後、視線を元に戻した。  やっぱり気になるのか……。 「俺ばっかりがお前のこと聞いちまったから、お前にも俺のことを知ってほしいと思ったんだよ」 「え……」 「知りたくねぇか?俺のことは」 「や!そんな……すっごく知りたいです!!」 遊は『すっごく』を強調して言った。それがひどく必死な感じに聞こえたから、思わず俺は笑ってしまった。 まあ、家に呼ぶ理由はそれだけじゃねぇんだけどな……。

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