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なみだ

「まぁ、あとはお前も知っての通りっつーか……グレたよ、さすがにな。高校受験も、親父が受けろって言ったところは全部サボった。家から遠い高校はメンドくて行きたくなかったからあそこを選んだんだ。せまっくるしい寮にも入りたくねぇし、家事なんてひとつもしたことねぇ俺に一人暮らしとか無理だし。でも入試は名前だけ書いて白紙で出した。なのに受かってたのにはビックリしたぜ。ま、中学ん時の成績を考慮されたのか、親父に金積まれたんだろうな」 「……」 「護身術として教えられていた技術もケンカだけど応用できてっし、今更勉強なんてしなくてもテストじゃいい点取れるし、あのクソスパルタ教育も無駄じゃなかったんだなーって今なら少し思うぜ。二度とゴメンだけどな」 「……」 俺の長くて重いつまんねぇ話を、遊は本当に最後まで聞いてくれた。 「ババアは俺と伊織が一緒にいるところを見たらやたらと発狂するようになったな。自分が俺をイビってたことは覚えてるらしくて、俺が自分への復讐のために伊織を殺すんじゃないかって思ってるみてぇ。ほんっとにムカつくぜ、誰が可愛い弟手にかけるかっつの……ババアは殺したいけどよ。……俺の話は一応、これで全部だ」 遊は正座をして俯いている。形のいい、押したくなるつむじが丸見えだ。 「……遊?」 話が終わっても遊は顔を上げなかった。足がしびれて動けねぇのか?と思ったけど……遊の顔からは透明なしずくが次々と落ちてきて、制服のズボンに染みていった。 「遊?」 遊は、泣いていた。 声も出さず、肩も揺らさず、静かに俺のために涙を流していた。俺は少しだけ、ベッドから身を乗り出して…… 「何でお前、泣いてんだよ」 そう言って、遊の柔らかな黒髪を少し乱暴に撫でた。吸いつくような感触が気持ちいい。 「だって、だって……!」 顔をあげた遊の両目はうさぎみたいに真っ赤で、涙がとめどなく溢れ出ていた。 「最初に楽しい話じゃねぇって言っただろ」 「それは分かってた、けど」 「聞いたこと、後悔したか?」 「してないよ!!」 「……っ?」 一瞬、何が起きたのか理解できなかった。俺の視界には天井が映っていて、体は何やら温かい。遊に、ベッドに押し倒されたのだとすぐに理解した。 「……おいコラ、ご主人様を押し倒してんじゃねぇよ」 つい、意地悪なことを言ってしまうのは、半分照れ隠しなのもあるけど…… 「ッ……うぅっ……うえぇ……!」 こいつ、号泣かよ。 「ったく、華乃子といいお前といい、俺の制服は涙と鼻水拭きじゃねぇんだぞ……」 遊の涙が染みてきたのか、胸の辺りに濡れたような感覚がした。しょうがないから、俺は華乃子にしたようにポンポンと遊の背中をあやすように優しく叩いた。 「だって、写楽が」 「俺がなんだよ?」 「写楽が、泣かないから」 ……………え? 「だから僕が、泣いてるんだ」 「何言ってんだよ、お前……」 「わかんないなら、いい」 わからねぇよ、全然、わからねぇ……なんで俺が泣かないからって、お前が泣くんだよ?

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