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二度目のキス

でも、なんでだろう。自分のために誰かが泣いてくれるということ、それがなんだか少し、嬉しいなんて……こんな感情、俺は知らない。 「うっ……うっ……」 「ほんと、泣き虫だよなーお前……」 屋上で(性的に)イジメたときも、こんな風に泣いていたな、と思い出した。俺は右手で遊の頭を軽く撫でて、左手で体勢を整えるように抱きなおした。 「写楽……?」 胸の中の深いところが、なんだかあったかいようなくすぐったいような、変な感じだ。けど押し倒されたまんまってのは、俺の性に合わねぇんだよな。 「ぅあっ!?」 俺は、俺の胸の上でめそめそと泣いていた遊の身体をいきなりグッと抱き締めて、そのままぐるん、と身体を反転し遊を下にして、上から顔を覗き込んでやった。 「形成逆転だな」 「っ……!?」 さっきまでぼろぼろに泣いてたくせに、俺の顔をアップで見た途端に遊の涙は止まり、代わりにいつものように――いつも以上に、顔を真っ赤にした。つーかこの体勢って、何気に結構ヤバい感じじゃねぇか? 「…………」 なんか、ドキドキする。自分の部屋の自分のベッドに、遊を押し付けているというこの状況に。遊とはもうキスも、それ以上のこともしているのに――最後まではヤってねぇけど。 「あ、あ、の……写楽……?」 俺が今すぐに遊の上からどけばいいだけだ、それだけで今の状況はなくなる。 けど、どきたくない。都合よく言えば、身体が言うことをきかない。 遊は白い頬を真っ赤に染めて、涙で濡れた遊の両目は俺だけを見つめている。 いま、俺だけを…… 『……きみのことが、すきです……』 遊は今何も言っていないのに、いつか言われた言葉が俺の脳に響いている。  キスしたい。 「……ふぅッ……ン……」 そう思ったときにはもう既に、俺は遊をキツク抱きしめて自分の唇を強く押し付けていた。抱き締めて、何度も、何度もキスをした。 「ンッ、んぅ、ふ……!」 「はッ……ン…チュ、……」 俺の、無駄に広い部屋の中で、唇が触れあうだけにしては激しいグチュグチュという卑猥な音と、俺と遊の息遣いだけが響いていた。この間も思ったけど、俺はなんで遊にキスしたくなるんだろうか。 俺の恋愛対象は女のはずだ。真剣な恋なんて今までしたこと無いけど、でも仮に男を抱いたり、抱かれたりなんて、想像しただけで気持ち悪いんだ。 ……それなのに、なんで相手が遊だと全然気持ち悪く思わないんだ……  むしろ、 「ンッ、ん……しゃらく……写楽……」 キスに応えられるたび、しがみつかれるたび、名前を呼ばれるたびに、もっともっと深いキスがしたくなる。抱きしめて、その華奢な身体を中まで暴きたくなる。 「んちゅ……ンッ、んぅ……す、き……」 もっと見たい。 「す、き……、好き、しゃらく……」 俺に溺れている、遊の表情を。 「ンッ……チュッ……ふぁ……っ」  もっと聞きたい。  俺を好きだと囁く、遊の声を。 「ッはぁ、……遊……」 足りない……。 しばらくキスに夢中になっていたけど、注意するかのようにいきなり電話の音が鳴り響いて、俺は慌てて遊から身体を離した。 「……ふぁ……?」 遊の顔は、もうトロトロに溶けきっていた。また押し倒したくなるのをグッと我慢して、俺はベッドサイドに置いてある内線電話へと手を伸ばした。 「もう8時過ぎてんじゃねぇか……悪い、シズネ」 内線をとるなり、俺は謝った。 『いいえ。何やら深刻な話をしていらっしゃったようなので、入るのは遠慮しました。今からお食事をお持ちしてもよろしいでしょうか?』 「あー……」 俺は、ちらりと遊の方を見た。 「……あと、もう30分後にしてくれ」 『かしこまりました』 内線を切って、俺は再び遊を抱きしめながら、ベッドにゴロンと横になった。 「写楽、なんで30分後なの?」 「だってお前、キスしただけで勃ってんじゃねぇか。そんな状態でシズネ呼んでいいのかよ」 「えっ……」 どうやら遊は、自分の状態に自分で気付いていなかったらしい。俺がそっと遊の下半身に触れると、 「あっ」 少し絶望したような声を出して、身体を固くした。

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