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君の習慣に少しときめく

「結構似合ってんじゃねぇか、その格好」  割烹着のまま、食事を部屋に運んだ。そして僕の格好を見た写楽の第一声が、それ。 「笑ってるよね?」 「笑ってねぇよ。嘘だけど」 「笑ってるじゃん……」  写楽は軽く握りしめた手を口元に当てて、くつくつ笑っている。なんだか最近、笑っている写楽を見ることが多いなと思う。 「この格好、変かな?」 「鏡見てみるか?なかなかいねぇぞ、世の中に割烹着と三角巾付けた男子高校生は。でもまぁ、しっくりくるっちゃーしっくりくるな」 「どうせ僕は所帯染みてますよ……」 「スネんなよ。似合ってるって言ってるだろ」 「それって褒めてるの?」  写楽はくつくつと笑い続けている。笑われてるのは正直微妙なんだけど、でも僕を見て笑ってくれているのが嬉しくもあって……なんか、恋心って複雑だ。 「とりあえず、メシ食おうぜ」 「うん、頂きます」 「お前のさ、食べる前にその手を合わせるのって癖?」 「え?クセっていうか……習慣?普通だと思うけど」  園ではご飯を食べる前いつもこうしている。梅月先生がそうするから、僕も子どもたちも真似していった感じかな?  でも、小学生の時とかやってたよね、今のクラスでしている人はあまり見かけないけど。 「ふーん……俺、お前のその仕草なんか好きだわ」 「えっ?」 「イタダキマース」  写楽も、僕のマネ?をして手を合わせて言った。その姿がなんだか微笑ましくて、僕はつい笑ってしまった。  『好き』だって、僕自身のことを言われたわけじゃないけど、嬉しいな……。  ご飯を食べ終わったので、二人分の食器を厨房へ戻しに行った。個人の家なのに プロの板前さんを雇ってるとか、なんかもう本当に別世界だ……僕はしみじみとそう思った。 「あの、ごちそうさまでした。とっても美味しかったです」 「あ、食器はそのままそこに置いてていいよ」 「はい」  片づけとか手伝わなくていいのかな。僕の視線に気付いたのか、何かの料理の下ごしらえをしていた板前さんが僕の方を見た。  板前さんは小山さんという方で、先ほどシズネさんに紹介してもらった。でもすごく忙しそうだったから軽く挨拶をしただけで、お話はしていない。  そんな小山さんに、何故か僕はじいっと全身を見られていて、少し変な汗がでた。 「あ、あの?」 「遊くん、だっけ」 「はい」 「写楽坊ちゃんの付き人の」  つ、付き人っ!? 「い、いえ!そんな大層なものじゃなくって、僕はただ写楽の身の回りのお掃除をしたりするだけで!ただの使用人です!」 「坊ちゃんのこと呼び捨てなんだな、元々友達なの?」 「と、友達っていうか……」  ペットです……なんて言えないし。 「すごいなぁ」 「へ?」 「ああ、いや。坊っちゃんは昔からシズネさん以外は信用してないから、色々とね……。じゃあ、これからよろしくな」 「はい、こちらこそよろしくお願いします」  小山さんはまた作業に戻ったので、僕はと頭を下げて再び写楽の部屋に戻った。

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