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気付いた気持ち

 そして広い部屋には、俺と遊の二人だけになった。 「……専属の、お医者さんまでいるんだね」 「あぁ。ババアを入院させるの親父が嫌がって。橋本先生は専門は精神科だけど、普通に内科勤務もしてたみてーから……外科処置も、できるし」 「まだ若く見えるけど、すごい先生なんだ」 「つっても40は超えてるハズだぞ」 「へぇ……」 「……」    会話が途切れた。とりあえず今俺がしないといけないことは…… 「遊、あのさ……」 「なに?」  どれだけ記憶を探っても、俺が覚えてる限りでその言葉を言ったことは無い。 「……悪かった」  誰かに謝る、という行為は……親父にもシズネにも、橋本先生にも街で暴れて呼び出された担任にも、俺を何度か補導した警察にも、ケンカ相手は勿論遊んで捨ててきた女にも、俺は謝ったことなんて今まで一度もなかったのに。 「謝らないで、写楽」  遊の言葉に、俺は顔を上げた。とてもじゃないが、こんな行為相手の目を見ながらなんてできない。 「僕はすごく嬉しかったよ、ちょっと痛かったけど。それより、僕の方こそごめんなさい」 「何がだよ」 「だって僕が欲しいって言わなかったら、最後まではしなかったでしょ?」  真っ赤な顔で、涙を浮かべながらそう言う。そのあまりにも切なげな表情に心臓を鷲掴みにされた気がした。無意識に俺は、遊をきつく抱きしめていた。 「しゃ、写楽?」 「……」  こいつの行動が可愛くて、たまらず抱きしめたことは何回もある。遊が絶対に嫌がらないのをいいことにキスをしたり、身体をいじくったり、仕舞にはセックスまで……  友達じゃない、恋人でもない。でも、そばにいて欲しい。  何回も感じてきた この気持ちは何だ? 『君のことが、好きです』 『君に殴られて君を嫌いになれるんだったら、僕はいくらでも君に殴られたいと思う』 『勿論いるよ……傍に。僕は君のペットだから……』 『写楽が、泣かないから……だから僕が、泣いてるんだ…!!』 『いつか写楽の手で、僕を殺して欲しいな』  とても言葉にはできない不可解な気持ちが、俺の胸の深い、深いところから湧き出てくる感覚がする。初めて経験するわけじゃない、今まで遊を見るたび、話すたびにこの感覚を感じることは何度もあった。でも、こんなに強く感じたことは無かった。 「写楽?」  泣いたことなんて数えるくらいにしかないけれど、そんな懐かしいような泣きたくなるような気持ちになった。でも悲しいとか、辛いとかそういうのじゃない。  ただ遊を見ると、胸が苦しい。 「遊、俺のこと、好きか?」 「……?」 「なあ」 「……好き、だよ。だいすきだよ」 「……」  そっか。  コレが、好きってことなのか……  俺は初めてありったけの想いを込めて、遊に深く口づけた。

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