61 / 174
気付いた気持ち
そして広い部屋には、俺と遊の二人だけになった。
「……専属の、お医者さんまでいるんだね」
「あぁ。ババアを入院させるの親父が嫌がって。橋本先生は専門は精神科だけど、普通に内科勤務もしてたみてーから……外科処置も、できるし」
「まだ若く見えるけど、すごい先生なんだ」
「つっても40は超えてるハズだぞ」
「へぇ……」
「……」
会話が途切れた。とりあえず今俺がしないといけないことは……
「遊、あのさ……」
「なに?」
どれだけ記憶を探っても、俺が覚えてる限りでその言葉を言ったことは無い。
「……悪かった」
誰かに謝る、という行為は……親父にもシズネにも、橋本先生にも街で暴れて呼び出された担任にも、俺を何度か補導した警察にも、ケンカ相手は勿論遊んで捨ててきた女にも、俺は謝ったことなんて今まで一度もなかったのに。
「謝らないで、写楽」
遊の言葉に、俺は顔を上げた。とてもじゃないが、こんな行為相手の目を見ながらなんてできない。
「僕はすごく嬉しかったよ、ちょっと痛かったけど。それより、僕の方こそごめんなさい」
「何がだよ」
「だって僕が欲しいって言わなかったら、最後まではしなかったでしょ?」
真っ赤な顔で、涙を浮かべながらそう言う。そのあまりにも切なげな表情に心臓を鷲掴みにされた気がした。無意識に俺は、遊をきつく抱きしめていた。
「しゃ、写楽?」
「……」
こいつの行動が可愛くて、たまらず抱きしめたことは何回もある。遊が絶対に嫌がらないのをいいことにキスをしたり、身体をいじくったり、仕舞にはセックスまで……
友達じゃない、恋人でもない。でも、そばにいて欲しい。
何回も感じてきた この気持ちは何だ?
『君のことが、好きです』
『君に殴られて君を嫌いになれるんだったら、僕はいくらでも君に殴られたいと思う』
『勿論いるよ……傍に。僕は君のペットだから……』
『写楽が、泣かないから……だから僕が、泣いてるんだ…!!』
『いつか写楽の手で、僕を殺して欲しいな』
とても言葉にはできない不可解な気持ちが、俺の胸の深い、深いところから湧き出てくる感覚がする。初めて経験するわけじゃない、今まで遊を見るたび、話すたびにこの感覚を感じることは何度もあった。でも、こんなに強く感じたことは無かった。
「写楽?」
泣いたことなんて数えるくらいにしかないけれど、そんな懐かしいような泣きたくなるような気持ちになった。でも悲しいとか、辛いとかそういうのじゃない。
ただ遊を見ると、胸が苦しい。
「遊、俺のこと、好きか?」
「……?」
「なあ」
「……好き、だよ。だいすきだよ」
「……」
そっか。
コレが、好きってことなのか……
俺は初めてありったけの想いを込めて、遊に深く口づけた。
ともだちにシェアしよう!