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気になるアイツ
好きだ、と自覚したところで今更どうしたらいいかわからない。
「アッ、あぁ、写楽、イクッ……!!」
「はぁっ……遊……!!」
恋愛に関して、今までいかに自分が受け身だったのかを思い知らされる。そもそも今まで恋愛をしていた自覚もないんだけど。
「はぁっ、写楽……すき……」
好きだなんだと一方的に俺にぬかし、頼みもしねぇのに股を開いてきた女たちの目に俺は一体どう映っていたんだろう。
「……」
「好きだよ……」
「……知ってる」
イッたあと、息を整えながら俺の胸にしがみついて、癖になったようなその言葉を一生懸命に吐きだす遊。でも俺は恥ずかしくて「俺も好きだ」と返すことができない。代わりに、くしゃっと髪を撫でて抱きしめ返してやる。抱いたあとの遊は、いつも少しだけ甘い匂いがした。
「僕が写楽を好きだってコト、知ってた?」
「はあ?当たり前だろーが」
「ふふっ」
それでも遊はとても嬉しそうな顔をするから、俺の気持ちは十分伝わってる、と思っていた。そんなことよりも俺が気になっているのは……
『お前、初めてセックスしたのいつだ?』
『その相手は?』
『なんで、そんな状況になったんだ?』
遊が俺の家で働き始めて一か月は経つ。二日に一度はこうやってメシのあとにセックスをして、一緒に風呂に入ったあと遊を帰す。たまに泊まらせて、一緒に登校することもある。
それだけの時間一緒にいるのに、俺は未だにそれらの疑問を遊に聞けないでいた。
最初は、遊が自分から言いだすまで待とうと思っていた。無理矢理聞きだすんじゃなくて、遊が自主的に言うまで待っていようと……なのに、一か月で待てなくなる俺ってどうなんだ。
一度好きだと自覚したら、毎日好きだと思ってしまう。遊の心もカラダも支配したい欲求に駆られる。それは俺の知らない遊の過去も含めて、すべてだ。
俺も今までさんざん女と遊んできたし、今更遊に清廉潔白な過去なんか求めてない。そもそも遊に経験がなけりゃ、あの日屋上では何も起こらなかったハズなんだ……多分。
今更何を聞いても驚きこそはすれ、俺は遊を手放すつもりは無い。期限なんて無く『ずっと』だ。
俺は遊を好きだと自覚する前に、遊には自分の過去のことをなぜかスルスルと打ち明けられた、俺のことを知ってほしい、と思ったからだ。
だから、遊にも俺と同じように自分の過去を俺に打ち明けてほしい。勝手な願いだとは分かっているけど、そう思って遊が自分から言ってくれるのを待っているのに、もしかして俺が遊に抱いている気持ちと遊が俺に向けている気持ちは違うんだろうか……。
俺が遊に聞けないのは、それをはっきり示されるのが恐いからか?
「なあ、遊」
「なに?」
「お前、再来年どうすんだ?大学行かなくて何か就職のアテでもあんのか?それか、夢とか」
「うーん」
ちくしょう……俺が聞きたいのは未来のことじゃなくて、過去のことだ。自分が恋愛に対してこんなにビビりだったなんて、思ってもみなかった……。
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