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大事なことだから言っておく
「……………」
遊は何も言わない。俺から目を逸らして、俯き加減で考え込んでいる。
まさか、断るつもりだろうか。やっぱりコイツは、実は俺のことはそんなに――……
「……正社員だとさ」
「あ?」
遊は俯いたままだが、真剣な顔で喋り出した。
「時給は一体いくらになるのかな……」
はぁ!?
俺は激しくツッコミたい気持ちを抑えて、しばらく考えて答えた。
「……とりあえず今より500円アップは約束する。昇給は1年ごと、福利厚生も当然付けるしボーナスも夏と冬に支給だ」
「雇い主様ぁ!末永くよろしくおねがいします!!」
こいつ、土下座しやがった。あれか、プライドなんて食えないものはいらないってか?言いだしといてアレだけど、マッパで土下座はちょっと引くぞ……。
でもそんなコイツが、俺は好きなんだよな。
「……ちなみに俺の部屋で寝泊まりするなら、家賃はいらねぇぞ」
「えっ?」
「同じベッドで寝るんだから別にいいだろ」
「……!」
あ、久しぶりに赤面したな……俺もだけど。我ながら情けないと思うが、これが今の俺の精一杯のデレなんだ。遊にはちゃんと伝わっているだろうか。
「あ、あの、写楽」
「あ?」
「ずっと聞こうと思ってたんだけど」
「な、なんだよ」
「あのさ……」
遊は俺に何を聞く気だ?上目遣いで俺を見つめている大きな目は涙を湛えているかのように潤んでいて、頬は赤みが差していて妙に色っぽい。まさか……
『実は写楽、僕のことが好きなの?』
とか聞く気じゃねぇだろうな?
いやいやいやいやいや無理、それはマジで無理!!頷くだけでも恥ずかしい質問じゃねぇか、マジでやめろ!!別にそんなん言わなくてもずっと一緒にいればいいじゃねえか!!なんでわざわざ好きとか言わなくちゃいけねぇんだよ!!俺は言わねぇぞ、絶対言わな……
「給料日っていつですか」
「は!?」
「その、今日で働いて一か月なんですけど」
「……」
こいつの頭の中は、金と俺とエロのことしかねぇのかよ?マジで見た目が中身裏切りすぎだろ!!まぁ助かった(?)けど。
「給料な……」
とりあえず俺は脳内で計算する。時給の千円を一日3.5時間 土日祝日を抜かして……
「こんなもんか」
俺もマッパでベッドから降りて、机の中から財布を取り出すと給料分の金をそのまま遊に差し出した。
「……え?」
遊は俺が差し出した金をじっと見つめたまま、受け取ろうとしない。
「おい、念願の初給料だぞ。受け取れよ」
「や……あの、まさか現金手渡しだと思わなくて」
「ああ?」
俺はバイトなんかしたことないから、普通は給料をどんな渡し方すんのか知らない。けど、遊には銀行振り込みじゃないんだから手渡しでいいだろう。
あ、普通は封筒に入れたりするのか?今度シズネに何かのついでに買ってきてもらおう。
「なんかお互いに裸だし、お金も裸だからイケナイことして稼いだお金みたいだね」
「は!?」
それってつまり、援助交際的な!?そしてこの俺が変態オヤジ役!?
「ごめんなさい、失言でした!!」
「お前な…」
いくらなんでも正直過ぎるだろ、素直なのはコイツの長所だけど。今度から絶対封筒に入れて渡す……。
「あっ、ちなみに僕は援助交際なんかしたことないからね!?」
「当たり前だ馬鹿!!」
どうやら最近のコイツは、俺の顔色が読めるようになってきたらしい。
『当たり前だ』なんてまるで知ってたかのように言ってしまったけど、必死で否定する遊の姿に俺は少し安心した。
「じゃあ……お給料、有り難く頂きます」
頭を下げながら、両手で金を受け取る遊。
「おう。……言っとくけど、セックスは仕事とは違うからな」
『好き』は言えねぇけど、こういうことはちゃんと言っとかねぇと、金でコイツのカラダを買ってると勘違いされたら困る……。
「分かってるよ。それは逆に僕がお金出したいくらいだし」
「は?」
「や、な、なんでもない!!失言!!」
ったく、コイツは……
「いい加減風邪引くから、風呂入るぞ。今日は金曜だから泊まっていくよな」
「あ、うん」
遊は顔を赤らめて返事をした。何で赤面したのかというと、遊が泊まる日は風呂から上がったあとも俺達はセックスをするからだ。
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