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天使を救済(する予定)

「いいよ遊、3年なんかに構うな。とっとと教室に戻るぞ。弁当食う時間がなくなる」 「あ、ハイ……じゃあ久志君、さよなら」  ちょっとは構えよこらぁぁぁ!!ユウちゃんも切り替え早すぎだから!! 「ユウちゃん、俺は諦めないからな!ペットなんて都合のいい存在じゃなくて、いつか絶対俺の恋人になってもらうからな!!」  俺の告白にクラスメイトがどよめいたが、でもそんなの関係ねぇ!ハイ、オッパッピー!……って何言わすんだコラ!!(特技・ノリツッコミ)   すると、逆上するかと思った犬神は以外に冷静な顔をして、俺を見つめていた。そして。 「……テメェに遊は無理だよ。あと、コイツは俺にとって都合のいい存在なんかじゃねぇ」 「は……はぁ!?」  無理って、何が無理なんだよ!?それにペットとか、都合のいい存在以外の何者でもねーだろうが!!  何故か、今の犬神の台詞に一番驚いてるのがユウちゃんなんだけど……。 「もうやめとけって中山クン、腹減ったし俺らもメシ食おうぜ。……おい犬神、あんま3年ナメてんじゃねーぞ。今日は中山クンの勘違いだったから大人しくお前のペットも返してやるけどな、次3年の教室にノコノコ来やがったらただじゃおかねえ。戦争がしてぇんなら、いつでも受けて立ってやる」  俺を制して、カッコよく溝内が言った。てめぇ、このいいとこ取り野郎!!なんかコイツの方がボスっぽくね!?俺だからね、3年のboss!! 「毎回仕掛けてくるのはお前ら3年の方だろ。こっちこそいつでも受けて立ってやる。でも、絶対に遊を巻き込むんじゃねぇ」 「フーン、ペット扱いな割には大事にしてんだね。もし巻き込んだらどうする気なんだよ?」 「その時は……お前ら全員、殺してやる」  一瞬、背中がゾワリとした。コイツの目、かなり本気(マジ)だ。溝内のノドから、ごくっと生唾を飲む音が聞こえた。 「写楽……ダメだよ」 「あ?」 「殺すのは、僕が先でしょう?」  ――はい?あれ?順番待ちなの?  そんなに人気があるのかな?犬神に殺されるのって。有名スイーツ店並なのかな?  なわけね――だろ!!! 「……そーだったな」 「忘れないでよ?……じゃ、バイバイ久志くん」  二人は、連れ立って教室を出ていった。その途端、『写楽さん!』『遊ちゃん!』と声がして、廊下に犬神の舎弟どもが待機していたことを知った。でも、んなこたどーでもいい。なんだったんだよ、最後のやり取りは。  ユウちゃん、あいつに自分の命預けてんのか?そんなに好きなのか?犬神のコトが……。 「……ヤバイな」  ボソリと溝内が言った。 「あ?犬神がかよ。そんなの最初から分かってたことじゃねーか」 「違う、ヤバイのはお前の天使だよ。あのクソ生意気な犬神があそこまでメロメロになってんだぞ?中山クンもだけど」 「………」 「でもなんか俄然、気になってきたかも。ちょっと奴の素性を調べてみるかな……」    溝内は、俺とは別の理由でユウちゃんのことが気になったらしい。何か有益な情報が得られたら教えてもらうか。  そして俺は……あんな仲のいいやり取りを目の前で見せられても、まだ、ユウちゃんのことが好きだ。一目惚れだし、男だからってそう簡単に諦めきれっかよ!  ユウちゃんは、きっと犬神に洗脳されてるんだ。そうでもなきゃ普通、あんな目ぇ向けないだろ?あいつのためなら、死ねるみたいな……なんもかんも棄てて、自分の命さえもどうでもいいみたいな。  そんなの、おかしい。絶対、俺が助けてやるからな!俺の真実の愛で、絶対にユウちゃんの目を覚まさせてやる!!  待ってろよ、ユウちゃん!! (※この日以降、3年不良軍団のボス中山久志が2年の犬神写楽のペットに恋慕しているという噂が全校に駆け巡った。)

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