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その頃の写楽

***  今日は遊がうちのクラスに来るのが少し遅いな、と思った。けど便所でもいってんだろ、と思ってあまり気にしてなかった。そしたら。 「しゃ、しゃ、写楽さん大変です!!遊ちゃんが3年に……つーか中山に連れ去られたって今、3組の奴から言われたんですけど!!」 「はぁ?」  クソモヒカンが便所から戻ってきた途端、かなり焦った様子でそんなこと言った。 遊が、中山に連れ去られた? ……………  接点、俺しか無いじゃねーか、あの野郎。遊を人質にとって戦争でもする気か? でも、なんだってこんな急に……。 「そーいや中山って、最近街でボコられてしばらく学校来てなかったみたいっスよ」  クソピアスが唇のピアスをいじりながら言った。 「それで鬱憤が溜まって遊ちゃん人質に写楽さんをボコろうとしてんのか!?そんなの卑怯すぎるだろ!!」  今度はクソキンパが椅子から立ちあがって言った。俺も概ねそんなトコだろうと思うが、それなら、そろそろ呼び出しがきてもおかしくない。 「「「……………」」」 「誰も、来ませんね……」 「……ちょっと3年の教室行ってくる」 「ええ!?写楽さん一人じゃ危ないっすよ!!俺らも行きます!!」 「遊を連れ戻してくるだけだから、一人でいい」 「罠かもしれないじゃないですかー!!っていうか罠でしょ、どう考えても!!」  ぎゃんぎゃん騒ぐうるさい舎弟どもを撒くほうが面倒だったので、 「……とりあえず、絶対こっちからは手ぇ出すんじゃねーぞ。殴られたら殴り返してもいいけどな」 と、忠告した。 「「「「わかりましたァ!!」」」」  遊が中山に連れ去られた、か……クソッ。そういえばあの野郎、少し前に妙に俺に絡んできやがったからな……俺じゃなくて遊を狙うとか、一体何を企んでやがるんだ……! *  3年の廊下を歩くと、なんで2年がいるんだと視線でオラオラされる。睨まれたら睨み返していく舎弟ども。ここは動物園か、と思いながらも中山の教室にたどり着いた。  そっと教室の中を覗いてみたら、なんか想像していた雰囲気とは違っていた。 「……………」  あいつら、何やってんだ?  遊は確かにそこに居たが別に拘束されてるわけでもなく、ただ所在なげに突っ立っているだけだった。壁の時計をチラチラ気にしながら……きっと俺のことを気にしているんだろう。遊のその態度に、俺は少し嬉しくなった  中山はやたらと「俺の天使」「遊ちゃん」「可愛い」と連呼している。俺はなんとなく状況を察して溜め息をついた。どうやら不良という生き物は、俺も含めて遊みたいなタイプが好みらしい。中山と好みが同じとかヘドが出るけど……。  でも俺が遊を好きになったのは、多分あいつとは違う理由だから、いいか。  それにしても、俺にペットのことで絡んできやがったくせにそのペット自体は見たことなかったのかよ、面倒くせーな……そう思いながらも、俺は中山に声をかけた。 「……そいつ、俺のペットなんでさっさと返してもらえませんかねぇ、中山パイセン?」  ……そして、中山と色々応酬したあと、遊を3年の教室から無事回収したのだった。

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