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あの人の正体
ああ、苛々する。
『ユウちゃん……俺は諦めないからな!ペットなんて都合のいい存在じゃなくて、いつか絶対俺の恋人になってもらうからな!!』
クソ、中山の野郎。あんな公衆の面前で遊に告りやがって……その後どうなるか考えないのか!遊は好奇の目に晒されたし、今後それに目をつけたバカに何かされるとか、ケンカに巻き込まれるとか……遊のことが好きなら少しは考えろよな。
でも、俺のイライラはそれだけが原因じゃない。
中山は遊にはっきりと言ったんだ――『恋人になってもらう』と。
それは、幼稚園児でもわかる愛の告白だ。俺自身は遊に好きと伝えるつもりはないし、その必要もないと思ってる。なのに、何であいつに先に言われたからってこんなにイライラするんだ?
「……写楽、どうしたの?」
「あ?別になんでもねぇよ」
俺は余程怖い顔をしていたのか、遊が心配そうな顔で俺を見つめていた。
「あ、わかったお腹すいたんでしょ?今日のお弁当写楽の好きなおかずいっぱい入ってるよ!」
「……そーかよ」
遊のやつ、一応告白されたのに全然気にしてねぇな……。(ちょっと中山が気の毒に思えてくるレベルだ)
*
教室に戻って遊の手作り弁当を食べる。確かに、メインのおかずは俺の好物の肉じゃがだった。味が染みてて旨い。金持ちだからといって寿司と天麩羅ばっかり好きなわけじゃない。むしろ俺はこういう素朴な家庭料理の方が好きなんだ。
「てゆーか遊ちゃん、なんで中山と知り合いなんだよ!?3組の奴等マジびびってたぞ!」
クソモヒカンが購買のパンをもしゃもしゃ食いながら遊に聞いた。そういえば、中山に連れて行かれた理由を聞いたのは3年の教室の中にいた俺だけだったな。
「うちの道路の前で怪我してたから助けたの」
「そーなんだ……なんか犬を助けたみたいな言い方だね……」
「それより写楽も久志くんの知り合いだったんだね。みんなも知ってるみたいだし、もしかして久志くんって有名な人なの?」
「「「「……………」」」」
遊……中山を知らなかったのかよ……ますます不憫だな、あいつ。
「遊、中山は3年のボスだぞ」
「えっ?」
俺に続いて、クソモヒカン達が補足した。
「つまりー、奴は俺たち2年の天敵なんだよ、遊ちゃん!」
「ほんっとに無事で良かったね、遊ちゃん!」
「てか告白されてたけど、どんな気持ち?」
次々に言われて、遊は軽く混乱している。クソピアス、最後にブっ込んできたな。
「久志くんがボスって……じゃあ、写楽のライバルみたいな……!?」
「ライバルでもなんでもねぇよ、あんなカス。いちいち俺に絡んできてウゼーから、そのたびに売られたケンカを買ってるだけだ。毎回ボコボコにしてっけど、懲りねぇんだよ」
もう何回殴ったのか覚えてないレベルだ。多分、校内であの野郎が一番俺に殴られてると思う。
「久志くん、喧嘩弱いのに3年生のボスなんだね……」
「いや違うよ遊ちゃん、写楽さんがケタ違いに強ぇだけで、中山も一応3年のボスだけあってかなりケンカは強いんだよ。ただ写楽さんが別格なの、別格!」
クソハゲ、お前は今後ちゃんと名前で呼んでやろう。……えーと、なんて名前だったか?(※金田くんです)
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