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可愛いペット

「そうなんだぁ……僕、写楽にしか興味ないから知らなかった……あっ」 「あ?」 「な、なんでもない!!」  遊は一瞬で顔を真っ赤にして、手をぶんぶん振って否定した。今、俺にしか興味ないって言ったか? 「………」  突っ込み辛いな!!舎弟ども、また不自然に首だけ後ろを向いてるんじゃねぇよ!!かすかに肩が震えてるのもバレてるしな!!!(※悶えている)  俺が黙っていたせいか、奴らはゆっくりと体勢を戻した。全員、顔は笑っている。一体何が可笑しいんだ、コラ……。  耐えきれないようにくつくつ笑いながらクソキンパが遊に言った。 「遊ちゃんて、ホンット写楽さんのコト大好きなんだねぇ~」 「え!?……そ、そりゃ、ご主人様だし…」 「ああ、そういやペットとご主人様設定だったなー」 「設定?」 「え、そういう設定なんでしょ?つーか、プレイ?」 「プレイ?」  さっきから何を言ってるんだ、この金髪クソ野郎。 「おい、そういうの本人達に言ったらダメだろ!!」 「え、でも遊ちゃんをペットだって紹介してくれたのは写楽さんだろ?」 「なんででもだよ、そういうとこ突っ込むなって!」  ヒソヒソ話してるつもりらしいがクソモヒカン、丸聞こえだ。何で一人だけそんなに焦ってんだよ。 「もう話変えよ!遊ちゃん、中山に告白されてたけどどうなの!?ちゃんと振った!?」 「え、告白?」 「恋人になってもらうとかなんとか言われてたじゃん?」 「……」  クソモヒカンの質問に、遊はキョトンとしている。まさかこいつ、中山のあのこっぱずかしい告白を聞いてなかったのか……!? 「僕は誰とも恋人になんかならないよ?」 「えっ?」 は? 「ちょ、遊ちゃん写楽さんは!?恋人じゃねぇの!?」 「写楽は、ご主人様だよ」 「ええぇええ!?」 「久志くんのあれは冗談だよ!本気でそんなこと言うわけないじゃない、男の僕を恋人にしたいとかさぁ。もしかしてみんな、久志くんが本気だったって思ってるの?」  俺達は一応中山の性格を知ってるから、あの告白を冗談だったと本気で思ってるのは  この場で遊だけだろう。遊は アハハと無邪気に笑いながら『ナイナイ!』とばっさり奴の告白を否定していた。  肯定してやるつもりはないが、中山、マジで不憫だな。 *  放課後になり、今日も遊と一緒に帰る。気のせいか、3年の連中がこっちをジロジロ見ているような気がする。 「おい、アレが中山くんが告白したっていう2年の……」 「でも犬神の舎弟なんだろ?」 「いや、どうやらそういうのじゃなくって……」 「ええ?ペットって冗談だろ……!?」  いや、気のせいじゃないな。帰る時間をもう少し遅らせればよかっただろうか。 「ふふっ、それにしてもみんなが久志くんの冗談を本気に取ってたなんてびっくりしちゃったよ!久志くんに言っとかないとね、誤解生んでますよーって」  クスクス笑いながら遊が言う。周りの状況……ジロジロ見られてることや噂されてることには一切気付いていないらしい。こいつ、本当に時々大物だよな。 「つーか久志くんって呼ぶのやめろって」 「じゃあ、なんて呼べばいいの?」 「クソ野郎かカス野郎でいいだろ」 「そういうわけにはいかないよ……先輩だし……」  苦笑いで遊が言う。あの野郎の呼び方なんてどうでもいいけど、俺以外の男を名前で呼んで欲しくないんだよ。 「……じゃあ、せめて名字呼びにしろよ」 「中山くん?」 「そこはセンパイ、でいいんじゃねぇの」 「そうだね、じゃあ中山先輩にする」  ざまあみろ中山、遊と近づきたくて名前で呼ばせたんだろうけど、俺の許可なしで遊に近付けると思ってんのかよ。もう近付けさせないし。 「写楽……あの、お願いがあるんだけど……」 「なんだよ」 「明日僕、数学の授業で当たるんだ……」  遊は少し恥ずかしそうに俯いて、ぼそぼそと言う。 「だから……その、また勉強おしえてください……」  言い終わったあとは、伺うように上目遣いで俺を見る。……くっそかわいい……もしコレがわざとだったなら、俺はいいように翻弄されてるな。でも別にそれも悪くない、と思う。 「……仕事、とっとと終わらせろよ」 「は、はい!すぐに終わらせるからね!」  俺の返事にぱあっと顔を明るくして、俺だけに見える尻尾を振りまくる遊。思わず撫でくりまわしてやりたい衝動に駆られたけど、いつもより人目があるからぐっと我慢した。  可愛くオネダリできたご褒美に(勉強のことだけど)今夜もベッドで沢山可愛がってやろう、と思った。  ……俺の可愛い、ペット。

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