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君は僕の先生

***  写楽の家でバイトを始めて一番良かったのは、まるで家庭教師のようにつきっきりで写楽に勉強を教えてもらえることだと思う。 「この問題は、さっきの公式に当て嵌めてだな……」  近くで写楽の綺麗な顔を眺めたり、すっごく気持ちいいセックスしてもらったり、美味しいご飯食べれたり、温泉みたいなお風呂に入れたりと、良かったことは山のようにあるんだけど……でも学生の本分はやっぱり勉強というやつで、勉強がとっっっても苦手な僕は、写楽が教えてくれるのでとってもとっても助かっているのです。  数学でも、化学でも、英語でも、写楽に苦手な教科は存在しない。 「……おい、聞いてんのか遊」 「き、聞いてます!」 「じゃあこの問題、一人でやってみな」 「ええっ!?」 「ええ、じゃねぇよ。さっきのと解き方は一緒だから」  うう、聞いてても一人じゃ難しいよ……えっとえっと、公式にあてはめて…… 「……もう違ぇよ」 「えっ!?」 「数学は基本暗記なんだよ、公式と解き方を暗記してあとは当て嵌めりゃいいんだ。お前、暗記は結構得意だろうが」 「暗記……」  計算じゃなくて暗記って言ったらなんとなく少しハードル下がる気がするなぁ……難しいことに変わりはないけど。 「とりあえず明日当たるとこやっちまうぞ」 「はい、写楽先生!!」 「くくっ」  あ、写楽が笑った。 「お前、気合い入れるとこ間違ってるから」 「痛いっ」  軽い力でデコピンされた。こういうやり取りを、男女が外でしてるのを見たことがある。恋人同士のひとたちがしているのを……。 「大袈裟に痛がってんじゃねーよ」 「えへへ……」  他には誰も見てないから、少しくらいそう思っていいよね……。  写楽の個人授業は、その後40分くらい続いた。すると写楽の部屋の内線電話が鳴りだして、僕はさっとそれに出た。 「はい、遊です」 『遊、食事はとっくにできていますが……』 「あっすみません!!課題やってて……今から準備します!!」  もう晩御飯の時間とっくに過ぎてた!課題に夢中で気付かなかった…!! 「あー、腹減った」 「ごめんなさい!今から持ってくるから!」 「慌てて廊下にぶちまけんじゃねーぞ」 「き、気をつけます」  内線電話を取るのも、もう僕の仕事になっていた。電話の対応はあんまり得意じゃないんだけど、写楽の秘書みたいな感じで楽しいから全然苦痛じゃない。相手はほとんどシズネさんだし。さて、ごはんごはん! * 「おう、遊くん勉強頑張ってたらしいな」 「お疲れ様です、小山さん!今日も写楽に数学を教えてもらってました」 「写楽坊ちゃん、勉強お出来になるからなァー」 「本当に!……あ、今日は冷やし中華ですね、美味しそう!」 「足りなかったらお代わりもあるからな」 「ありがとうございます!」  このお屋敷で働き始めてニか月と少し経って、まだ奥様と旦那様には会ったことないけど、他の使用人の人とは少しずつコミュニケーションを取っていい関係が築けているんじゃないかな、と思う。

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