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僕にできること
黙々と食事を済ませて、僕は写楽の分の食器も片付ける。すると、写楽が言った。
「遊、今日泊まってけよ」
「えっ?でも明日、学校だし……教科書とかない……」
僕はクラスの人達みたいに、教科書を机の中に置きざりにする――いわゆる置き勉というのはしてなかった。(写楽はそれすらしてないけど)だって、教科書盗られたくないし……高いからね。置き勉する人って盗まれるの恐くないのかなぁ。
「朝、車で送ってくから」
「そ、そんなの中川さんに悪いよ!」
中川さんは、犬神家の専属の運転手だ。主に旦那様の送迎をしているらしいけど、僕も前に一度ロールスロイスで家まで送ってもらった。
「ハァ……じゃあ明日は俺の教科書持ってけよ、時間割りは覚えてんだろ。何か書き込んでも全然かまわねーからよ。それより今夜は勉強教えた礼、たっぷりシてもらうからな」
「……!」
写楽がニヤ、と笑って僕は思わず赤面した。たっぷりって……またお風呂のあとたくさんセックスするのかな。僕にはただのご褒美なんだけど……でもそれがお礼になるなら、 僕は喜んで写楽にご奉仕する。
今日はいつもよりじっくり舐めて、自分からいっぱい動くことにしよう……明日、腰が痛くてもいいや。体育は見学するし。少しでも写楽に悦んでもらうんだ。
僕は写楽のために、それ以外は何もできないから。
「俺先に風呂入ってっから、皿片付けたらお前もあとから入って来いよ」
「分かった」
今から期待して、身体を熱くしてる僕は一体どれだけ浅ましいんだろう。
*
「し、失礼しまーす……」
「オウ」
相変わらずの熱いお風呂。湯気で少し周りは見えにくいけど、僕に背中を向けて檜の湯船に浸かっている写楽の後頭部にまっすぐ視線がいく。
「遊」
「はいっ!?」
「このまま、俺の頭洗えよ」
「は、はい!」
無遠慮に頭を見つめてたのを怒られるのかと思った。そりゃ頭に目はついてないんだから、分かるわけないよね。
僕は写楽のそばに行って跪くと、檜の桶を使って写楽の頭を流した。こうやって写楽がお湯に浸かった状態で頭を洗うのはもう三回目くらいかな?高そうなシャンプーを手に取り、泡立てて彼の頭をマッサージするように丁寧に洗っていく。
「かゆいトコとかない?」
「特に無ぇ。気持ちいい」
「良かった」
梅月園の小さな子どもたちを普段からお風呂に入れて洗ってあげているから、人の頭を洗うのは慣れている……と思ってたけど、相手が好きな人だと全然話は別だ。緊張する……。
「おい」
「は、はい?」
「中山のコトだけど」
「ひさ……中山先輩?」
初対面の時から『久志くん』って呼んでたから、『中山先輩』ってちょっと言いにくいな。でも、写楽の命令に逆らおうとは思わないから慣れていかなくちゃ。
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