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彼の言葉の意味
「その……どう思ったんだよ、告白されて……」
「どうって?冗談きついなって思ったけど」
久志くん、あんまり冗談言うタイプには見えなかったんだけど、僕を恋人にするだなんて渾身のボケにしか聞こえなかったよ!
怪我してるところを助けたから多少は好いてくれたのかもしれないけど、いくらなんでも『恋人』はない。
ホントは大笑いしたかったんだけど、誰も笑ってなかったから僕も笑わなかった……あ、もしかしてあそこで笑わないのって『ボケ殺し』だったのかな!?うわあ、今度久志くんに会ったら謝らなくちゃ!
「……冗談じゃなかったとしたら、どう思う?」
「え?」
あの告白が、冗談じゃなかったとしたら……?
写楽がどんな顔をしてそんなことを言っているのか見たかったけど、泡だらけのままだから無理だった。
「嬉しいか?あいつに告白されて」
「ええ!?」
な、なんで嬉しがらないといけないの!?冗談じゃなかったとしたら、困惑しかないよ!何で僕?っていう意味で。
「……もういい、泡流せ」
「は、はい」
僕は写楽の頭の泡を流して、手早くコンディショナーを付けるとまたさっと流した。その後は自分の頭と身体を洗って、湯船の中の写楽の隣に腰を下ろした。
写楽はずいぶん長く浸かっているけど、風呂好きだから平気らしい。(僕は絶対無理!)ミネラルウォーターも持ちこんでるし、さすがだと思う。
でも、その後写楽は黙りこんでしまった。僕も、写楽の言った言葉の意味を考えていた。
あの言葉が冗談じゃなかったらなんて、どうしてそういうこと聞くの?
そして、昼間のことを徐々に思い出していく。課題のことで頭がいっぱいで忘れていたけど、そういえば写楽は、僕のこと……
『遊は俺にとって、都合がいいだけの存在じゃねぇから』
「……っ!」
「おい遊、のぼせたのか?顔が真っ赤だぞ」
「え!?や、その、違うよ!」
急に顔を覗きこまれるように話しかけられて、僕はお湯をぱしゃんと揺らしながら狼狽えてしまった。
「違う?」
「いや、その、の、のぼせました」
「………チッ」
え、舌打ち!?写楽、僕に怒……いや、ムカついたの?僕、何か写楽の気に障ること言っちゃった!?
「のぼせたんなら、とっとと上がるぞ」
「ま、待って!あの、ごめんなさい!」
どうしたらいいか分からなくて、つい謝罪が口をついて出た。
「何を謝ってんだよ」
「え、えっと……その……僕の、態度?」
何で写楽がいきなり怒ったのか分からないから、つい語尾に疑問をにおわせてしまった。それがまた彼を逆上させることは分かっていたのに。
「自分でもわかんねぇのに、謝罪なんてしてんじゃねえよ」
「ご……ごめん、なさい…」
どうしよう、泣きそうだ……。
でも泣いたらまた、怒らせてしまう。どうしたらいい……?
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