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指先から、甘い香り

 視界が徐々にぼやけていく。僕の意思とは関係なく涙が目に集まってるのが分かる。今瞬きをしたら、こぼれてしまう。いやだ、いやだ、泣きたくなんかないのに……!! 「ッ!?」  いきなり頭にバスタオルが掛けられた。その衝撃で、目からぽろぽろっと涙が零れ落ちる。そしてバスタオルをかけられたまま、抱きしめられた。 「写楽……?」 あ やばい僕、ものすごく涙声だ。 「……舌打ちとかして、悪かった」 「!」 「別に、お前にムカついたワケじゃねぇから……」  写楽は、僕を強い力でぎゅうぎゅう抱きしめてくる。僕にムカついたわけじゃないんだ、良かった……でも、それなら彼の行動の意味が分からない。写楽は一体誰にムカついたんだろう?もしかして、久志くんに……?  僕も写楽の背中に腕を回して、ぎゅっと抱きついた。すると写楽の身体がぴくっと跳ねた。 「写楽、あのね……」 「ん?」 「僕、ひ……中山先輩のことは、なんとも思ってないよ」  この回答が正しいのかは、僕には分からない。けど少しだけ、ほんの少しだけでも、写楽が久志君に嫉妬してくれたのなら…… 「そーかよ」 「ぷわ!」  写楽は、いきなりバスタオルで乱暴に僕の頭をわしゃわしゃと拭いた。犬を洗ったあとみたいな……状況的に、間違ってはいないけど。  どうしてだろう。なんとなく、写楽の指先から甘い香りがするのは……。  お風呂場から出て、バスタオルに身を包んだままもつれるようにして、僕と写楽はベッドに倒れ込んだ。  写楽に上に乗られて、手と手を絡ませて、息もろくにできないような激しいキスをされる。 「ンンッ、はっ、ちゅ、チュ……」  次の日腫れそうなくらい、唇を思い切り吸われる。僕、なんだか写楽に食べられてるみたいだ……。  唇が離れると、僕は小さく口を開けて舌を出して写楽を誘った。写楽の口元が少しだけ歪んだ気がした。 「チュウ、チュプッ、ぺロッ」  今度はお互いの舌をじゅるじゅる絡ませて、唾液を交換し合ういやらしいキスをした。たまに薄く目を開けて思うのは、キスをしてる写楽の顔がとてもカッコイイ、ということ。  普通にしててもカッコイイけど……。  こういう風にキスをされたら、女の子とか一発で落ちちゃうんだろうな。男でも落ちるけどね。  長い長いキスをしたあと、写楽は顔をずらして僕の首に勢いよく噛みついた。 「痛ッ!」 「痛いのがイイんだろ」 「……うん……」  最初は痛かったけど、この痛さがもうクセになってるから写楽の言う通りだ。写楽の息が同時に首すじをフッと掠めて、僕はそれを感じただけでイッちゃいそうになる。 「ん、は…ぁ」  噛まれたあとは ちゅうちゅうと首を吸われる。なんだか写楽、吸血鬼みたい。確か吸血鬼って、吸われた人も吸血鬼になるんだよね?だったら…… 「ね、写楽……」 「うん?」 「僕も、したいな……」 「何を?」 「首に、噛みつくやつ」 「!!」  あれ?なんだかものすごく吃驚された。

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