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遊と華乃子②

 華乃子ちゃんは、すごく可愛い……というか、きれいな女の子だ。まだ2歳なのにすごく整った顔立ちだし、ミステリアスなところが写楽にとても似ている。もちろんそれは、華乃子ちゃんの双子の兄、伊織くんもだ。  でも写楽と伊織くんたちはお母さんが違うからきっと3人とも旦那様の方に似てるんだろうなぁ、僕は予想する。  華乃子ちゃんはいつもお気に入りだという赤い着物を着て、髪もきれいに整えてあるから本当に日本人形みたいな子だな、と思う。泣いてるところはよく見るけど、そういえば笑顔は一度も見たことないな、と思った。  伊織くんは、よく笑う子だけど……。 「華乃子ちゃん、なにしてあそびたい?」 「………」 「お人形さん遊びする?おうまさんごっこでもいいよ!」 「………」  二人にされたはいいけど、ずっと華乃子ちゃんの無言が崩れない。  梅月園はどちらかというと男の子が多いから、僕は小さい女の子の相手は実は少し苦手だったりする。来たとしても、もう小学生だったりするし。  でも、子どもに警戒されたりとか嫌われたりとかは今まで一度もないんだけどなぁ。現に、伊織くんは最初から懐いてくれたし……。やっぱり女の子は小さい頃からイケメンを見てると違うのかなぁ。  それとも単なる人見知り?純粋に僕が嫌われてるだけ? 「……いや……」 「え?」  あ、今何か喋った!?僕はもう一度華乃子ちゃんに目線を合わせて、「なあに?」と首をかしげてみせた。 「ゆう、いや」 え……えええぇぇ……!! 「ご……ごめんね、写楽お兄ちゃんじゃなくて……」  純粋に僕が嫌われているだけだった!予想はしていたけど、はっきり言われるとちょっと傷つくなぁ……涙が出そうだ。 「……かの、いおのとこ、いく」 「あ、ちょっと!?」  華乃子ちゃんはさっと立ちあがると、ドアとは反対側――縁側の方にいきなり走り出した 「か、華乃子ちゃん!?待って……あ痛ッ!」  急に立ち上がったせいで、お尻から腰、背中にかけて鈍痛が僕を襲った。 「い、いったぁぁ……!」  思わずその場に崩れるようにしゃがみこんだ。なんか僕 ご老体みたいじゃないか……まだ17歳なのに!  でも今はそんなことにショックを受けてる場合じゃない!華乃子ちゃんの面倒見てくれってシズネさんによろしくされたのに、逃げられてる場合じゃないだろ!伊織くんは今、勉強中なのに……!! 「華乃子ちゃん、待って!!」  僕は痛む腰を手で支えながら、廊下をとてとて走って行く華乃子ちゃんをへっぴり腰で必死に追いかけた。  華乃子ちゃんを追いかけてるうちに、僕は此処が『僕が歩いてはいけない廊下』だということに気付いた。――ま、マズイかもしれない……。 「華乃子ちゃん、待ってってば!!」  どこまで走るの!?腰が痛くなかったら、2歳児くらいひょいっと捕まえられるのに!  写楽が言ってたように伊織くんが今スパルタな先生から勉強かお稽古を習っているとしたら、邪魔したら絶対怒られるよね……主に、僕が!!  将来本格的に就職するかもしれないお屋敷で、バイトの段階で呆れられたくないっ! 「はぁ……はぁ……華乃子ちゃん……」  華乃子ちゃんはまた廊下を右に曲っていった。今、何度目の角を曲った?もう僕一人では写楽の部屋に戻れそうにない。  それでも、僕には華乃子ちゃんを追いかける義務がある。 「華乃子ちゃんっ」  僕は廊下を右に曲った。すると、その先で華乃子ちゃんが立ち止まっているのが見えた。よかった、やっと止まってくれた!  その時、僕は気付かなかった。今曲がった廊下の先が、他の廊下に比べて一段と薄暗くなっていること。そして、その先に人が立っていたことに。

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