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幼い君を守りたかった僕

「遊?どうした」 「写楽は小さい頃、いつも玲華さんに……」 「――あぁ、殴られてたよ。すれ違うたびに蹴られたりとかな。まだ今みたいに完全におかしくなってなかったから隔離されてなかったし、あのババア、パッと見ただけじゃわかんねぇところばかり攻撃してくるからな。俺が虐待されてることはあまり知られてなかった。それでも偶然に見ていて俺を庇ってくれる使用人は何人かいたけど、全員ババアにクビにされちまった」 「……!」 「ま、おかげで身体はすげー打たれ強くなったけどな。感謝なんかクソほどもしてねぇけど」  そう言って写楽は顔を歪めて笑ったけど、僕には到底笑える内容じゃなくって。 「………」 「また泣いてんじゃねぇよ、遊」 「だって……」  勝手に溢れてくる涙を手の甲で乱暴に拭った。僕が守ってあげらればよかったのに、と本気で思った。タイムスリップでもできないかぎり、それは無理な話だけど……。  すると、 「しゃぁく、にぃた……」 「か……」 「華乃子ちゃん!」  華乃子ちゃんが目を覚まして、むくりと起き上がっていた。僕は思わず写楽を押しのける勢いで、華乃子ちゃんの方へと身を乗り出した。 「大丈夫!?結構強く抱きしめちゃったんだけど、どこも痛くない!?」 「抱きしめた?」 「あっ……」  やはり兄として、まだ幼い妹が他の男にそんな風にされるのは嫌だったのか、写楽は不愉快そうな声を出した。 「いや、その、不可抗力ってやつです……」 「ふーん」  む、むしろ褒めてもらいたいところなんだけど……身体張って守ったから……。 「……ゆぅ……」 「な、何!?華乃子ちゃん」  華乃子ちゃんは小さい手で僕の指先をぎゅっと握ってきて、僕と写楽は同時に目を見張った。だって、華乃子ちゃんはいつまでたっても僕に人見知りしてて、写楽の前では勿論、今朝だって僕を嫌がってた。 それなのに。 「……ゆうも、しゃぁくにいたんといっしょに、かのとあしょぶ……」 「……っっ!!」  あまりの可愛さに我慢できなくて、僕は恐れ多くもシスコン(?)の兄の目前でまた華乃子ちゃんを抱きしめてしまった。 「華乃子ちゃんかわいいーっ勿論遊ぶよ!なんでもしてあげる!!何して遊びたいの!?」 「……おぅましゃん……」 「なる!!僕は君の馬になるよ!!」 「おい遊、華乃子に変態発言すんな、教育に悪ぃだろ」 「へっ?」  変態発言!?そんなつもりはないんだけど、僕が言うと変態くさく聞こえるのかな……!?ちょっとショックだ。 「馬鹿、本気で落ち込むなよ。冗談だから」 「え」  じょ、冗談?今日は冗談を言われるのが多い日だな。玲華さんの冗談は冗談じゃない気がしたけど、写楽のは本当かな?  僕がずっと怪訝な顔をしていたからなのか、写楽は僕の頭にポンと手を乗せて、 「今日は、ババアから華乃子を守ってくれてサンキューな」 と言ってくれた。 「………!!」  やばい……なんだか胸が詰まって、何も言えない。 「華乃子も、遊にありがとうって言ったか?」  写楽にそう促されて、僕の腕の中の華乃子ちゃん恥ずかしそうに僕を見つめると、 「……ゆぅ、あぃがと……」 と小さな声で言った。 「………っっ!」  僕が感激してまた華乃子ちゃんを抱きしめたのは、言うまでもない。

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