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遊兄ちゃんの彼氏

 次の日、僕は5時半に起きて平日と同じようにお弁当を作った。朝ごはんになるのか昼ごはんになるのか分からないけど、遠出にお弁当は付きものだろう。あと、水筒に入れた冷たい麦茶なんかも。  遠足の準備をしているみたいでちょっと楽しい……おやつは無いけどね。 「遊兄ちゃん、今日デートか?」 「うわッ!!?」  また、いつぞやのように僕の気付かないうちに、キッチンマットの上に明良が体育座りで座っていた。 「ふ、普通に話しかけてよ!てか、起きるの早いな明良……」 「いい匂いがしたからね。なんかチョーダイ~」 「しょうがないな……」  僕は、アスパラベーコンを一つ取り、明良の口の中に放り込んだ。昨日の口止め料も兼ねて、だ。 「うっまぁ~、毎日遊兄ちゃんの弁当食べられるなんて彼氏、うらやまし!」 「給食が出るでしょ?」 「給食なんかより遊兄ちゃんの弁当の方がいいよ!」 「中学生になったら、給食が恋しくなるよ」 「そんなもんー?」 「そんなもんだよ」  今当たり前に給食を食べている明良には、なかなか分からないだろうけどね。  明良が中学に上がるのは、今から2年後だ。その頃僕はもう…ここには居ない。だから、中学生になった明良のお弁当を作るのは確実に僕ではないんだけど、気付いていないみたいだから言わなかった。  お弁当を作り終えて洗濯物を干していると、表の方からバイクのエンジン音がした。まだ、7時にはなってないはずだけど……?  僕は、洗濯物を干すのを中断して、庭から玄関の方へと回った。 「写楽……!おはようっ」 「おう」  そこにはヘルメットを外した、私服の写楽がバイクの横に立って居た。写楽は私服もすごくかっこいい。絶対Tシャツ一枚5000円くらいするんだろうなぁ……いや、もっとかな? 「ごめんねちょっとだけ待ってて。洗濯物干し終わったら、すぐに家出るからっ」  すると、写楽は手を自分の口元に持ってきて、身体を震わせ始めた。 「……どうしたの?」 「お前、なんで園でも割烹着着てんだ……?」 「え?ああ!シズネさんに予備で貰ったから。割烹着の機能性はスゴイよ、夏はちょっと暑いけどね」  僕が割烹着について語ってたら、写楽はしっしっと犬にするようなジェスチャーをして、 「わかった、わかったからとっとと家事済ませてこい、遊カーチャン」 と言った。 「カーチャンじゃないよ!?」  まだ笑い続けてる写楽を置いて、庭の方を振り返ったら…… 「あれが遊兄ちゃんのカレシ!?」 「うわ、めっちゃかっけぇ!ゲーノージンみてぇ!」 「な、な、俺が言ったとおりだろ!?」 「一緒に写真うつりたーい!そんでクラスで自慢するの!」 「あ、ずっりー!!」 ……………。 「明良ぁぁぁぁ!!!!」 「うわ、遊兄ちゃんが怒った!!」 「逃げろーっ!!」  小学5年生のしゃべりたがりで好奇心旺盛な明良が、こんな面白いコトをみんなに秘密になんてできるわけなかったんだよね……。

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