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写楽と子供たち
昨日遊に学校を休ませて、午前中は一人で華乃子の遊び相手をさせたけど、運悪くババアに遭遇したらしくて案の定思いっきり脅されていた。
相手は病気なんだからいちいち本気に取らなくてもいいって言ったのに、やっぱり慣れてないとあしらうのは無理だったみたいだ。
それでも遊はちゃんと華乃子を守ってくれた。遊がいなかったら、華乃子は顔を真っ赤に腫らしていただろう。
でも、あんなに遊に人見知りし続けていた華乃子が、あのあとすぐに遊に懐いたのは想定外だった。ずっと俺にだけ懐いてたのにな……。
めちゃくちゃ可愛がってたワケでもないが、他の奴にあんな風に懐かれると少し淋しいような気がする。そんな兄らしいことを思う自分がなんだか可笑しかった。
夕方になって遊を園まで送ってやろう思いバイクの後ろに乗せたら、予想以上に楽しんでくれた。乗り心地も気に入ったようだったので、土曜日の今日海に行こうと提案した。
9月とはいえまだ海水浴はできる気温だから、人が多い場所には絶対行かないけど、ただ海を眺めたりするのは嫌いじゃないし、今年はまだ一度も行ってなかったから。
それと、後ろからギュッと抱きつかれる感覚を俺がまた味わいたかったっつーかな……。
でかい胸がついてるわけじゃあるまいし、なんでそう思ったのかあんまり考えたくはないけど、好きな奴に抱きつかれて嬉しくない男はいないだろうと思う。
俺、別に変じゃないよな……。
あんまり遅い時間だと日が照ってきて暑いから、朝方に行くことにした。夜の海も不気味で嫌いじゃねぇけど、朝の海はもっといい。 何もかも許されたような気分になるから。
約束の時間よりも少し早く着いたら、裏庭の方から割烹着姿の遊が姿を見せた。ウチで働いてる時は作務依を着てるからそうでもねぇけど、私服に割烹着ってそれもうマジでカーチャンじゃねぇか……しかもちょっと、昭和っぽいやつ。
笑って馬鹿にしたら遊は少し怒った。さらに後ろからは施設のガキどもが覗いていて……(どうやら俺は施設公認の遊の彼氏らしい)
「明良ぁぁぁぁ!!」
「遊にいちゃんが怒ったーっ」
「逃げろーっ!!」
遊があんな風に怒るなんて珍しいもん見たな、とちょっと嬉しくなる俺の周りにも、いつのまにか逃げたはずのガキどもが群がっていて、ガキが苦手な俺は少し腰が引けてしまった。
「なあ兄ちゃん!名前なんてゆーの!?遊にーちゃんとはいつから付き合ってんの!?何カ月め!?カップルって三カ月めが一番ラブラブなんだろ!?」
「い、犬神写楽……ちょうど三カ月だけど、」
そもそも付き合ってないんだけど……だから知り合ってから3ヶ月、な。遊が施設で俺のことをどう説明してるかわからないから、無暗に否定するわけにもいかなかった。一応こいつらよりも年上の遊に恥かかすわけにはいかないと思って……。
「しゃらく!?かっけぇぇぇ名前ぇぇ!!」
「しゃらくにいちゃんかっけぇぇぇぇ!!!」
「かっけぇぇぇぇ!!!」
一人が叫ぶと、それに習うように全員が叫び出した。小学生のテンションにビビる。
「なあなあもうセックスした!?ていうか男同士ってどうやってやんの!?」
「せっくすって何だよ?」
「まだお前には早いよタカヤ!」
「えー!!」
お前ら全員まだ早いよ……何て不埒な質問してくんだ、このガキ。
すると、反対方向からぐいっと手を掴まれた。びっくりしてそっちを見ると、今度は小学生の女児が二人キラキラした目で俺を見つめていた。
「遊兄ちゃんは、明良たちがエッチな質問したらすぐげんこつするよ」
「だから写楽お兄様も殴っていいと思うよ!」
写楽おにいさま?なんかすごい遊と格付けされた気がするけど、俺の方が上っぽいからいいか……。
「てめー余計なこと言ってんじゃねえよブス!!」
「なによブサイク!!」
うわケンカし始めた、面倒くせぇ……遊、早く戻ってこねぇかな。
「ねぇねぇ写楽お兄様、わたしと一緒に写真撮ってくださいっ!カメラ持ってくるから」
「マイコずるい!わたしが先よ!!」
「わたしが先にお兄様に頼んだのよ!!」
今度はこっちかよ。遊、いっつもこいつらの面倒見てるとかすげぇな……。
「こーら!写楽を困らせてるんじゃないよ!!」
遊が出てきた。さすがに割烹着は脱いでいて、ラフな格好だ。昨日バイクで冷えたからか、ちゃんとジャケットを羽織っている。
「ひゅうひゅうー!!付き合い三ヶ月目のカップルが揃ったぞぇー!!ひゅうひゅうー!!」
「よっ、ごりょーにん!!」
「ごりょーにんってなに?」
「知らん!!」
遊は迷うことなく3人のクソガキの頭を拳骨で殴って黙らせた。最後のアキラっていう一番年上のガキには、一番力を込めて。
「さ、写楽行こうかっ」
「お、おう……」
でも俺に振り向いた顔はいつもの遊だった。こいつ意外と二重人格……?
「遊兄ちゃんばっかり写楽お兄様一人占めしてずるい!!」
「写真撮ってよー!!」
今度は女児がわめきだす。別に写真撮るぐらい俺はかまわないけど、今は早く出発したいんだよな。
「はいはい、それは帰ってからね。それと写楽がいいよって言ってからだよ」
「「えー!!」」
「えーじゃないよ。お前たちは梅月先生の言うコトをしっかり聞いて、悪さしないように!」
俺は話してる途中の遊の頭に後ろからスポッとヘルメットを被せた。すると遊は、促されるように自然にバイクへと乗り込んだ。
「写楽兄ちゃん!今度俺もバイクの後ろ乗せて!!」
「……ちゃんと遊の言うコトを聞いたらな」
「聞くー!!」
一応、遊を立ててやった。遊の手が俺の腰にまわったのを確認して俺はエンジンをかけて、ガキどもを轢かないようにバイクを発進させたのだった。
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