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君と海に来た
「わあ、海だぁーっ!!」
目の前に広がる砂浜と海を見て、遊は歓喜の声をあげた。俺は自分のメットより先に、遊のメットを外してやった。
「わー!!」
解放された遊はバイクから飛び降りると、砂浜に向かって駆けだした。
「おい遊、あんまはしゃぐと靴に砂入るぞ!あと砂に足取られてコケるぞ!」
なんか、ガキみたいな喜びっぷりだ……さっきガキどもを拳骨していたのと
同一人物には見えない。
「写楽、早くー!!」
「わかったからちょっと落ち着けって」
俺はなんとなくわざとゆっくりメットを外し、鍵を抜いてバイクから降りた。遊は砂浜に入る直前で、にこにこしながら俺が来るのを待っている。
こいつ本当に犬みたいだな。
「僕、海とか本当に久しぶり!小学生以来!」
「そうなのか?」
施設のガキどもと一緒に行ったりしないのか?それとも大人の目が少ないから、梅月先生はあまり連れて行ってはくれなかったのだろうか。
俺も自分で行かなきゃ、海なんか行くことは皆無だったけどな。
遊は俺の腕を引っ張りながら、砂浜へとずんずん歩いて行く
「なんか乾燥わかめがいっぱいだね!うわ、魚の死骸がある!!腐ってる~~くっさ!!あっ、カニが歩いてるよ!!あれ、カニじゃなかったやどかりだった!!可愛いねー!」
「おい、ちょっと落ち着け高校生」
「えへへ……海って想像以上にテンション上がるね!」
「お前だけだよ」
「そう?」
腕を離して、しばらく好きに砂浜を歩かせてやった。なんか犬に散歩させてやってる気分だな……。
砂浜を堪能したあとは、遊の興味は波に移った。波打ち際ギリギリのところまで行って、波が来るたびに「わー!」と叫んで逃げている。あれじゃいつか、濡れるな。俺は少し離れたところから見ていた。
「写楽ー!!」
「あん?」
「海、楽しいね!!……わああ、波が来たーっ」
「おう」
そこまで喜んでもらえるなら、連れてきたかいがあったってものだ。良かった。
遊は園ではマセガキどもの世話をして、学校では俺の舎弟どもの世話をして、俺の家では伊織と華乃子の世話をしている。完全に二人っきりになったのは久しぶりだし、誰かの世話を焼かなくていいこの状況がますます遊のテンションを高めているんだろうか。
俺と一緒に居る時は、俺が世話してやってる側だしな。
遊はなかなか波と追いかけ合うのを止めない。波に勝つたびに一人で「あははは!!」と
海に向かって大笑いしている。
遠くに見える釣り人にも遊のテンションと行動は異様に見えてるらしく、いぶかしげな目つきで見られている……遊は気付いていないけど。
俺がここで見ていてやらなかったら完璧に変人じゃねぇか。
ちょっと心配になってきたところで、俺は遊を呼んだ。
「おい遊、腹減った」
遊が持ってきた荷物の中から、なんだかいい匂いがしていたのを俺が気付かないとでも思っていたか。
「はーい!」
遊は遠くから片手をあげて俺に応えた。くっそ、変人でも可愛すぎる。
*
遊は砂浜から離れた芝生にレジャーシートを敷き、せっせと弁当とお茶の用意を始めた。準備良すぎだろ。
「はいっ、写楽。冷たいお茶どうぞ」
紙コップまで持参してるし……。
「今って何時くらいかな?」
「8時」
俺は腕時計を見て答えた。
「そっか、日差しがなんかまだ柔らかいよね。早めに来てよかった、ちょっと寒いけど」
「……海、楽しいかよ?」
「うん、とっても楽しい!僕、自分が海に来てこんなにテンションあがるなんて思ってなかったよ!」
「それは俺もだな……」
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