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秘密の会話
数回のコールのあと。
『はい!梅月園です!』
この声は確か、アキラとかいうガキだな。
「えっと、犬神写楽だけど」
『写楽兄ちゃん!?どしたのデートの最中に!』
デート……そういえばそうか、初めて二人で出掛けてるもんな。行き先も海だし、よく考えなかったけど思いっきりデートの定番じゃねぇか。ああでも、浮かれてる場合じゃない。
「梅月先生いるか?」
『居るよ!おーい先生、写楽兄ちゃんから電話!』
『写楽くんから?何かしら』
『きっと遊兄ちゃんがデート中になんか困らしたんだぜ!』
間違ってはいねぇけど。
『遊は明良とは違うのよ!……もしもし?写楽くん?』
「おはようございます、お久し振りです」
俺の呼び方が犬神くん、から写楽くん、に変わったのは親近感を抱いてくれているんだろうか。俺にとっては新鮮すぎる呼び方で少しくすぐったい。
『今日は遊と遊んでくれてありがとうね、何処に行くかは聞いてないんだけど、本当に昨日はずーっとそわそわしていたのよ、遊。楽しみで楽しみで仕方ない、って感じ』
「ははっ」
アイツ、行き先言ってねぇのかよ……それとも知らない、とでも言ったのか?
「どうしたの?まさか本当に遊とケンカでも――」
「海に」
俺は梅月先生の言葉を遮って言った。
『えっ?』
「海に、連れていきました」
『――……っ』
スマホの向こうから、梅月先生がゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。
……反応が過剰すぎる。
『……じゃあ……じゃあ遊は、海に行くのをそんなに楽しみにしていたの?……行き先は今日決めたんじゃなくて?』
「他の場所ならこんなに早く迎えには行きませんよ。昨日の帰り際に、遊を誘いました」
『それで今、遊は!?』
「はしゃぎ疲れて寝てます。昨日寝てないせいもあるんでしょうけど、疲れたのはもっと別の理由もありそうです」
『………』
そんな態度を取ったら何かあるんだろうなってすぐにバレるのに、わざとやってるんじゃねぇよな……それとも取り繕う余裕もないほど、ヤバイことでもあったんだろうか。
「梅月先生。俺に……遊の過去のことをもう少し詳しく教えてくれませんか。俺は遊に直接聞こうと思ってたけど、アイツは絶対に自分からは昔のことを話してくれない。けど、俺はあいつの過去が知りたい。……遊を守るために、知りたいんだ」
遊を、正確には遊の心を……。
「俺はいまさら遊の何を知ったってヒかないし、あいつを手放したりしない。あいつとの関係を、学生時代だけの軽い付き合いで終わらせる気なんて最初からなんですよ」
あいつは俺のために沢山泣いてくれたから、俺は何故か救われた気がしたんだ。
「だから……お願いします」
今なら、あのとき泣いた遊の気持ちが少し分かる気がする。俺には涙は出ないけど……。
『この番号ね、固定電話なの』
「はい?」
『他の子供たちに聞かれたら困るから、私の携帯から掛け直すわ。……少し、待っててくれるかしら』
「はい」
『じゃあ、一端切るわね』
通話が切れた。
「……フゥーッ……」
俺は部屋のドアに凭れて、ズルズルとその場にしゃがみこんだ。
梅月先生は一体俺にどこまで話してくれるだろうか……。
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