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ふたりの時間①
俺も遊もあのまま寝てしまったようで、気が付いたときは夕方の6時を回っていた。
「うわ……シーツカッピカピになってら……」
やはりラブホを選択すべきだったかと思ったけど、普通に替えをもらえばいいと思った。何も問題はない。とりあえずシャワーを浴びて、晩飯の調達に行こうと思った。
*
「写楽、どこ行くの……?」
遊が起きないようにそっとドアを開けたつもりだったけど、気が付いたらしい。
「起きたのか。ちょっと近くのコンビニで晩飯買ってくるから、お前はその間にシャワー浴びてろよ。あとフロントに電話して新しいシーツ受け取っててくれるか?ベッドメーキングは任せる。お前、得意だろ」
「……ん、わかった」
「20分くらいで帰ってくるから、大人しくしてろよ」
「子どもじゃないんだから……」
お前が言うなと思ったけど、遊も同じ事を思ったらしい。なぜなら『帰りたくない』なんて、子どものようなことを言いだしたのは遊なのだから。
「……写楽」
「ん?」
「迷惑かけてごめんね」
謝罪の言葉なんていらない。これは俺の意志でもあるのだから。
「……じゃあ、ペットらしく言えよ」
「……?」
遊は少し考え込んだけど、すぐに柔らかく微笑んで、
「ありがとう、ごしゅじんさま」
と笑って言った。
「……すぐ戻るから」
「うん」
そして俺はまだ明るい外をバイクで駆け抜けた。
*
とりあえずおにぎりを2個ずつとカップラーメン、チキンを二つ、あとお茶を二本とポカリを一本と夜食のお菓子を買った。
昼も食べずにセックスしていたから無性に腹が減っていて、サラダ類なんて目にも入らなかった。遊が『バランス悪い』って怒りそうだ。
フロントで預かってもらってた鍵を受け取り、部屋に帰ってきた。
「ただいま」
「あ、お帰りなさい」
遊はシャワーを浴びたあとにちゃんと乾かさなかったのか、まだ髪が濡れていた。けどその状態で、洗面所で朝食べた弁当の箱を洗っていた。ベッドは、既にきれいに整えられている。
俺はポットに水を入れるとお湯を沸かして、遊と同じように浴衣に着替えた。海風を浴びたので、また寝る前にシャワーを浴びよう、と思った。
「何買ってきたの?」
遊は俺のところに来るなり、目を輝かせてコンビニの袋を手に取った。何か文句を言われる前に、俺は自己申告する。
「……サラダ買うの忘れた」
「うん、そうみたいだね。でも……普段カップラーメンなんてほとんど食べないから美味しそう!身体に悪そうな物ってなんか美味しいよねぇ」
「おう」
俺も普段はカップ麺なんて食べないから、それだけは選ぶのが楽しかった。
「……ちょっと来いよ。ちゃんとドライヤ―当ててやっから」
「え……」
戸惑い気味の遊を洗面所まで引っ張ると、俺は無言で遊の髪を乾かし始めた。無言だとさっきの俺の告白を思い出してしまうのか、鏡越しに遊の顔がだんだんと赤くなっていくのが見えた。かわいいと思った。
「……乾いたぞ」
「あ……ありがとう」
遊の髪は乾かしただけでまっすぐサラサラになる。伸ばしたらきれいなストレートヘアになるだろうな、と思った。
でも会った時から前髪以外は一度も切って無いみたいだから、最初の頃に比べたらだいぶ伸びた印象がある。キノコっぽいシルエットはそのままだけど。
「ご、ご飯食べよう!僕おなかすいちゃったよ」
「俺も」
普段は全く見ないテレビのバラエティ番組を見ながら、チキンとおにぎりを二個、あっという間に食べてしまった。もうラーメンも食べてしまうか。
「うお、あぶねぇ、これ後入れなのかよ」
俺のひとり言に反応して、遊が近くに来て俺の手元を覗きこむ。
「何何?……へえ、最近のカップラーメンってなんか凝ってるんだね」
「おう、間違えて最初に入れそうになったぜ。お前も食べるか?」
「うん、お願いします」
にっこり笑って俺の方を見るから、ついいつもの癖で額にキスしてしまった。
「………」
「………」
なんか、妙にこっぱずかしいのはなんでだ……!?遊も赤くなって俯いていた。
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