108 / 174

ふたりの時間①

 俺も遊もあのまま寝てしまったようで、気が付いたときは夕方の6時を回っていた。 「うわ……シーツカッピカピになってら……」  やはりラブホを選択すべきだったかと思ったけど、普通に替えをもらえばいいと思った。何も問題はない。とりあえずシャワーを浴びて、晩飯の調達に行こうと思った。 * 「写楽、どこ行くの……?」  遊が起きないようにそっとドアを開けたつもりだったけど、気が付いたらしい。 「起きたのか。ちょっと近くのコンビニで晩飯買ってくるから、お前はその間にシャワー浴びてろよ。あとフロントに電話して新しいシーツ受け取っててくれるか?ベッドメーキングは任せる。お前、得意だろ」 「……ん、わかった」 「20分くらいで帰ってくるから、大人しくしてろよ」 「子どもじゃないんだから……」  お前が言うなと思ったけど、遊も同じ事を思ったらしい。なぜなら『帰りたくない』なんて、子どものようなことを言いだしたのは遊なのだから。 「……写楽」 「ん?」 「迷惑かけてごめんね」  謝罪の言葉なんていらない。これは俺の意志でもあるのだから。 「……じゃあ、ペットらしく言えよ」 「……?」  遊は少し考え込んだけど、すぐに柔らかく微笑んで、 「ありがとう、ごしゅじんさま」 と笑って言った。 「……すぐ戻るから」 「うん」  そして俺はまだ明るい外をバイクで駆け抜けた。 *  とりあえずおにぎりを2個ずつとカップラーメン、チキンを二つ、あとお茶を二本とポカリを一本と夜食のお菓子を買った。  昼も食べずにセックスしていたから無性に腹が減っていて、サラダ類なんて目にも入らなかった。遊が『バランス悪い』って怒りそうだ。  フロントで預かってもらってた鍵を受け取り、部屋に帰ってきた。 「ただいま」 「あ、お帰りなさい」  遊はシャワーを浴びたあとにちゃんと乾かさなかったのか、まだ髪が濡れていた。けどその状態で、洗面所で朝食べた弁当の箱を洗っていた。ベッドは、既にきれいに整えられている。  俺はポットに水を入れるとお湯を沸かして、遊と同じように浴衣に着替えた。海風を浴びたので、また寝る前にシャワーを浴びよう、と思った。 「何買ってきたの?」  遊は俺のところに来るなり、目を輝かせてコンビニの袋を手に取った。何か文句を言われる前に、俺は自己申告する。 「……サラダ買うの忘れた」 「うん、そうみたいだね。でも……普段カップラーメンなんてほとんど食べないから美味しそう!身体に悪そうな物ってなんか美味しいよねぇ」 「おう」  俺も普段はカップ麺なんて食べないから、それだけは選ぶのが楽しかった。 「……ちょっと来いよ。ちゃんとドライヤ―当ててやっから」 「え……」  戸惑い気味の遊を洗面所まで引っ張ると、俺は無言で遊の髪を乾かし始めた。無言だとさっきの俺の告白を思い出してしまうのか、鏡越しに遊の顔がだんだんと赤くなっていくのが見えた。かわいいと思った。 「……乾いたぞ」 「あ……ありがとう」  遊の髪は乾かしただけでまっすぐサラサラになる。伸ばしたらきれいなストレートヘアになるだろうな、と思った。   でも会った時から前髪以外は一度も切って無いみたいだから、最初の頃に比べたらだいぶ伸びた印象がある。キノコっぽいシルエットはそのままだけど。 「ご、ご飯食べよう!僕おなかすいちゃったよ」 「俺も」  普段は全く見ないテレビのバラエティ番組を見ながら、チキンとおにぎりを二個、あっという間に食べてしまった。もうラーメンも食べてしまうか。 「うお、あぶねぇ、これ後入れなのかよ」  俺のひとり言に反応して、遊が近くに来て俺の手元を覗きこむ。 「何何?……へえ、最近のカップラーメンってなんか凝ってるんだね」 「おう、間違えて最初に入れそうになったぜ。お前も食べるか?」 「うん、お願いします」  にっこり笑って俺の方を見るから、ついいつもの癖で額にキスしてしまった。 「………」 「………」  なんか、妙にこっぱずかしいのはなんでだ……!?遊も赤くなって俯いていた。

ともだちにシェアしよう!