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『愛してる』
「あ、でも俺が不慮の事故なんかで死んだらどーしようもねぇけどな!その時は……」
「その時は、後追い自殺するよ」
迷いもせずにそんなことを言う遊に、俺は一瞬ギョッとした。
「あぁ?何物騒なこと言ってんだ。寿命まで生きろよ」
「だって」
「だってじゃね……ンッ?」
遊から……初めて遊から俺に、キスしてきた……!?
キスなんてもう何回もしているのに、『遊からしてきた』という事実だけで俺はあまりにも驚いて声も出せないでいる。そんな俺に、遊は言った。
「だって僕は、もうきみのいない世界じゃ呼吸だってできないんだ……」
ぼろぼろに泣いていたせいで、遊の目はウサギみたいに赤い。その大きな目からは、また透明な涙が次々とこぼれおちてゆく。まるで、スローモーションのように。
「………」
「……好きなんだ……きみのことが。どうしようもなく……」
声が震えている。初めて会った時みたいに。
ただ あの時と違うのは――
遊はもう一度触れるだけのキスをしてきた。俺は馬鹿みたいに動けないでいる。そして動かない俺の首に手を回して、今度は耳元で囁いた。
「僕の世界にはもう、きみしかいないんだよ。……写楽……きみを、愛してる……」
”愛してる”
「……遊……」
「重たいことばっかり言って、ゴメンね……」
遊はまるで何かから隠れるみたいに、俺に抱きついた。俺は無言で、とにかく強い力で、遊を抱きしめ返した。
「写楽……?」
一体こんな俺のドコをそんなに好いてくれてるのかわかんねぇけど……理由なんてないのは、俺も同じだ。
「……今度は、」
まだ俺は『愛してる』なんて大層なことは言えない。今の俺が言ったらなんかすごく薄っぺらく聞こえそうだし、何より恥ずかしくてまだ『好き』以上のことは言えそうにない。遊は本当にスゴイ奴だ。
だから俺はとりあえず、
「今度は、俺が待つから……」
「え?」
「お前が、俺を恋人にしてもいいって言うまで、待つから」
いつか恥ずかしがらずに、俺も自然に『愛してる』って言えるように、
「恋人になっても、俺はお前を一人になんてしねぇから」
お前が安心して俺の側に居られるように、俺も努力するから。
「お前しかいないのは、俺も同じなんだよ」
だから、これからもずっとあきれるくらい、一緒にいよう……なんて、やっぱり恥ずかしくて言えないけどな。
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